2025年の空の出来事を振り返ると、米国では乱気流がもたらした事故や負傷のニュースが印象深く残る。航空業界にとって乱気流は決して新しい課題ではないが、2025年はその深刻さをあらためて突きつけられた1年であった。
春先から北米各地では乱気流による負傷が相次ぎ、米国国家運輸安全委員会(NTSB)が調査を開始した。
座席のシートベルトを外していた乗客が宙に浮き、客室乗務員が床に叩きつけられる映像は、多くの人に航空旅行の脆さを思い起こさせたにちがいない。幸い死亡事故にはつながらなかったが、数10名規模のけが人を出すケースもあり、2025年の空を象徴する出来事となった。
警戒されているクリアエア乱気流
2025年の数字はまだまとまってはいないが、NTSBの統計によれば、2009年から2022年の間に、米国の主要な航空会社では乱気流が原因で重傷を負った客室乗務員や乗客の数は163人にのぼるという。
この状況を考えるうえで、過去の事例も思い出される。2024年5月、シンガポール航空321便がインド洋上空で突発的な乱気流に巻き込まれ、1名が死亡し100名以上が負傷した。
1997年にはユナイテッド航空826便が太平洋上空で予兆のない「クリアエア乱気流」に遭遇し、10数名が重傷を負った。
米国内の統計でも、2009年から2024年の間に200件を超える乱気流関連負傷が報告されている。
こうした過去の数字や出来事を並べると、2025年の乱気流による事故がけっして特別ではなく、むしろ長年積み重ねられてきた事例の延長線上にあることがわかる。
なかでも警戒されているのが「クリアエア乱気流」である。雲や雷雲のような目印がなく、レーダーでも捉えにくいため、パイロットが事前に回避するのが難しい。3万フィート前後の高度で突発的に発生し、機体を大きく揺らす。シートベルトを外していた乗客が頭を打ったり、天井に激突したりするのはこのタイプの乱気流である。
研究者たちは、地球の気候の変化がこの乱気流の発生頻度や強度に影響している可能性を指摘している。
特に北大西洋航路のデータからは、数10年前に比べてクリアエア乱気流が増加している傾向が示されている。温度差の拡大やジェット気流の変動がその背景にあると考えられており、航空会社にとっては無視できない課題となっている。



