乱気流は航空の安全を揺さぶる
2025年の航空業界では、このリスクに対応するための努力も続いた。人工衛星の観測データやスーパーコンピュータによる数値モデルを活用した予測技術の開発、パイロット同士のリアルタイム情報共有、客室乗務員への訓練強化など、取り組みは多岐にわたる。
しかし、完全に予測不能な現象である以上、決定的な解決策はまだ見えていない。結果として、乗客にとって最も確実な安全策は「常にシートベルトを締めておくこと」という基本的な行動に尽きる。
飛行機でのシートベルト着用は基本であるが、快適さを優先したり、危険を感じにくかったりするため外す人は少なくない。サインが点灯しても「少しくらい平気」と思う心理が働く。
しかし乱気流は予測できず、一瞬で人を宙に浮かせる力を持つ。客室乗務員は暗い機内を歩き回り、シートベルトを締めることに抵抗する乗客をなだめながら確認を続ける。その間にも、客室乗務員も自らの安全が脅かされる。安全な空の旅は、乗務員の努力と乗客1人1人の心がけのうえに成り立っているのである。
もし、この年末年始、旅行で飛行機に搭乗するのであれば、ぜひ周りを見回して欲しい。シートベルトを外している人が多いのに気がつくと思う。
自動車で考えれば、筆者が成人するあたりまではほとんどのドライバーがシートベルトをしていなかったのを思い出す。日本で言えば、道路交通法の法規にはなっていたが罰則規定はなかった。
しかし励行だけでは着用が進まず、結局1985年ころから段階的に、法律が改正されて罰則が盛り込まれ、前席着用義務となり、いまの全席着用義務へと変わっていく。
あの頃は、シートベルトを着けると、ドライバーに「あなたの運転は心配」というメッセージになりかねないので、着けたくてもつけられなかったという流れがあった。
しかし、いまではむしろ着けないことが同乗者のリスクになるというふうに意識が完全にシフトしている。飛行機の機内もまったく同じ理屈なのに、それでも着けない人がたくさんいるのはどう考えればいいのだろうか?
筆者は仕事の性格上、太平洋を往復することが多い。30年近くこれを繰り返していると、「あっ、いま、自分は死んだ」というほどの気流に10年に一度は遭遇している。
2025年を振り返ると、乱気流は航空の安全を揺さぶる大きな要因として再び浮かび上がった。空の旅は依然として最も安全な交通手段の1つである。しかし、予期せぬ揺れによって生じた負傷者の報道は、私たちにその安全が絶え間ない努力のうえに成り立っていることを思い出させる。
2026年以降も、乱気流に関するニュースが完全に消えることはないだろう。だが、この1年で得た教訓が、航空会社や研究者、そして利用者に共有されれば、被害は確実に減らせるはずである。
2025年の空を揺らした乱気流は、航空の未来に向けた課題を静かに突きつけたのである。


