世界での日本の位置を押し上げるのは、名実ともに日本のポップカルチャーだ。Forbes JAPAN 12月24日発売号「2026年総予測 新時代がわかる『100の問い』」特集内で、日本IPの最前線を担う世界的著名監督のふたりに、その未来について語ってもらった。
——日本発コンテンツの海外売り上げはここ10 年で約3倍、2023年には5.8兆円に達し、半導体や鉄鋼産業の輸出額を超えています。また、Netflixをはじめとする配信事業の普及により、コンテンツの「届け方」や「つくり方」にどのような変化を感じていますか?
庵野秀明(以下、庵野):現場はそんなに変わらないですね。意識的には。環境は変わったかもしれませんが。僕自身は海外を意識して作品をつくったことはないです。ドメスティックなものしかつくれない。映画会社もすぐに「海外が」と言ってくるんですが、僕自身は目指していません。まずは日本国内で受けるもの、そこで面白がられるものに基本的には終始して、運よく海外の人が面白がってくれればありがたいな、というスタンスです。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(21年公開)では自身が原作で、製作をはじめ、配給・宣伝も自社でやりましたが、事実上の自主制作にすることで、周りから何も言われない、もうかってももうからなくても自分で責任を取れる、というのがよくてやりました。これもつくるときは海外のことは考えていません。山崎くんのほうが、ずっと考えているんじゃないかな。
山崎 貴(以下、山崎):『ゴジラ-1.0』(23年公開)の製作時は、海外は1ミリも意識していなかったです。完成しかけてきたころに東宝の方が「海外でも展開します」と。でも吹き替えではなく字幕でやるというので、はじめは「やる気がないな」と思いました。でも、コロナ禍で北米でも日本やアジアのアニメ、ドラマを観ていた方がたくさんいて、むしろ字幕のほうがクールだ、と。僕たちが何かしたというよりは、時代が変わり、受け入れられる土壌ができていた、という印象です。(米国で)実写邦画の歴代興行成績を塗り替えたのは、驚きのほうが大きかったですね。
海外の人に向けて出す作品の最大の武器は、海外のことをまったく考えない、ドメスティックを突き詰めることだと思います。そのほうが作品は力を持てる。世界標準に合わせていくなら、多分ハリウッドにもっと上手な人がたくさんいる。そうではなくて、変わったもの、少し変でも何か面白い、というものが海外に出る日本の作品の強みだと思います。ハリウッドが最近つまらないといわれているのも、「こうすれば当たる」という方程式ができすぎて、同じようなものばかり出てきてしまうのが最大の問題。そのなかでどれだけドメスティックなものを作れるか——それは内容が日本的、という意味ではなくて、日本人の感覚でつくったもの。それこそが我々にとっていちばん有利な条件なのではないかな。



