映画

2025.12.24 08:30

「子ども向けが少ない」庵野秀明・山崎貴が抱く危機感と日本発エンタメ・文化の未来

庵野秀明(写真右)・ 山崎 貴(同左)

庵野:言い方は難しいけれど、働き方改革はいいと思うんですが、ただ、一方的に働きたい人まで働かせないのは良くない。「働きたい人」向けの改革もしてほしいです。

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山崎:「まだ働きたいんです」「いや、月間の残業時間超えちゃうからダメ」みたいなことは多々ある。結局、仕事が好きな人にとっては、仕事でも何でもないんですよね。いちばん楽しい時間、何よりも楽しい時間を奪い取ってしまうことになると思います。

庵野:体力もあるし、そういうときがいちばん伸びますよね。アニメーターがうまくなるのって、結局手を動かすしかないんです。30歳までの伸び代を伸ばすのって、やはりがむしゃらに何かやっていることなんですよね。その伸びる時期を社会が無理やり削ることはないのかな、と思います。日本の労働環境は今までが悪すぎたので、そこが良くなるのはいいと思いますが、働き方って一律じゃないんですよね。いちばんいいところを模索すべきだと思うんです。今は、模索がない。もう「これ」ってなったらそうなっちゃう。テーゼに対するアンチテーゼが来るのはいいんですが、その次の「ジンテーゼ」がない。両方のいい落としどころをこれから模索するべきだと思います。

——ハリウッドでは、2023年に脚本家組合と全米映画俳優組合が生成AIによるスキルの収奪、肖像権についてストライキを起こしました。AIについて、業界への影響をどう考えていますか。

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庵野:AIも働き方と同じで、とらえる人によってまったく見方が異なるので本当に難しい問題だと思います。ただもう存在してしまっているので、それは肯定しながらも、模索するしかないと思います。ツールにしては便利すぎるというのがAIの問題かなと。いろいろなところで自分のやっていることが奪われてしまう、という恐怖は出てくると思います。多分、AIが脚本を書いても人間が書いても区別はつかない。AIに近いことを人間がやっているだけなので、逆に人間の仕事をAIにやってもらうのはありじゃないでしょうかね。著作権が存在する以上、ルール決めは必要だと思いますが、自分で学習できる範囲で使うことじゃないでしょうかね。勝手にはできないので。例えば、東宝が歴代ゴジラ作品の映像をAIに学習させて、ゴジラ作品を一本作つくれって言っても、誰からも文句は来ないですよね。というか、言えない。東宝さんの著作ですから。

山崎:ちょっと見てみたいですね。どんなゴジラになっちゃうのか。

庵野:「東宝チャンピオンまつり」(1969〜1978の興行プログラム)のゴジラとか、あの辺りも学習させてどんなバランスなのか見てみたいよね。

山崎:ゴジラこそ、本当に多様性のあるコンテンツなのでものすごい許容範囲が広い。丸ごと食わしてどんなのが出てくるのか見てみたい(笑)。

CGが出てきたときもミニチュアの人が「ふざけんなよ」と。楽してすごいものをつくるつもりだろう、卑怯な手だ、と思われたんですが、その時と非常に似ていますね。でも多分勘ですけど、いいものはそんなに簡単には出てこない。トライアンドエラーの回数は増えると思いますが。CGも、ものすごく上手な人が時間をかけて練り上げていって、ようやく現実にみんなに見てもらえるものが出てくる。ものすごく苦労したカットってやはり評判がいいんですよね。「怨念がこもる」と僕は言っているんですが。そこには怨念がこもるくらいの人間の努力が必要な気がします。でもちょっと何が起こるかわからない怖さもありますね。

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構成・文=岩坪文子 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=大谷亮治、楢林未奈子

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