映画

2025.12.24 08:30

「子ども向けが少ない」庵野秀明・山崎貴が抱く危機感と日本発エンタメ・文化の未来

庵野秀明(写真右)・ 山崎 貴(同左)

——日本政府は、2033年までに海外売り上げ20兆円を目標に日本発コンテンツ産業を後押ししていく方針です。また、日本は世界のなかで自国映画のシェアが半分を超えている希少な国のひとつです。業界の課題や、政府の支援のあり方について、どうお考えですか。

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庵野:鉄鋼より輸出額が多い、など最初に目を引くのはお金だと思うんですが、お金よりは、低コストで日本文化を世界に発信できることに着目したのは良いと思いますし、僕は国としてはそっちを大事にした方がいいと思います。韓国、中国もやっているし、元々はハリウッドがやっていましたよね。

山崎:戦後の日本人のアメリカ人感がものすごく変わったのは明らかにあのころのドラマのおかげですよね。「パパは何でも知っている」なんかを観て、それまで鬼畜米英と言われていたのに「うわ、アメリカの人たちってこんな素敵な生活をしていて、こんなにいい人たちなんだ」と。韓国の国力も、コンテンツのおかげで大きく上がったと思うんです。日本の作品を見て、日本人を好きになってもらう、イコール日本の製品を好きになってもらう。国自体を好きになってもらうためには、投資が少なくて済む割に、強力な武器になる。政府の方々もやっと気づいてきた。

庵野:非常にコスパが良くて、不幸な人が誰もいない。

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課題として、今いちばん問題だと思うのは低年齢層向け、子ども向けのアニメーションが少ないということ。なかなか良いものは多くない。僕らが子どものころはそれであふれていました。ゴールデンタイムは子ども向け番組ばかりでしたから。アニメや特撮、いわゆるちょっとした科学番組、そういうものも含めてですけど。それで情操なり、いろんなところが形成されたと思うんです。原因は少子化もありますが、テレビのはやり廃りなど、複合的な問題です。一時期からテレビはバラエティばかりになってしまいましたから。あとは、こういうことを言うと怒られますけど、アニメ、特撮、邦画などを総括的に歴史としてまとめて、業界を導くような人があまりいない。見識ある評論家は少ないです。大学などでようやく始めてくれていますが、僕はそのひとつとしてアーカイブに力を入れています。でもこれこそ国がやってほしいな、と思います。地方自治体や一アニメ企業では限界がありますから。アニメや特撮、漫画やゲームの資料や中間生成物を残すことで、次の世代につながるんです。「こうやってつくっていたんだ」と紐解きがあったり、感動があったり。新しい世代がそれを見て「僕もこういうものをつくりたい」と思ってくれるのが理想なのですが、それを継続していきます。あとは、タックスクレジットです。やはり税金高いですから。人材育成の面では、いま徒弟制度もだいぶ崩れてきているので、それをもち直せるくらいの支援をしてもらえるとうれしいな、と思います。現場はカツカツなので、なかなかそこまでお金と手間が回らない。たまにヒットが出て、それでやっていける、というくらいです。

山崎:業界にはテントの支柱に例える「テントポール」という言葉があって、映画業界自体は常に赤字なんだけれど、時々それを支える大ヒット作品があってやっと業界は成立している。博打に近いですからね。悲惨なときはとても悲惨。さらに言うと、実はこの産業自体はエンターテインメントに支えられているんですよね。でも日本の学校って、アートを教える学校しかない。アメリカだと(スティーブン・)スピルバーグが出たカリフォルニア州立大学ロングビーチ校(CSULB)などエンタメを作る学校と、ニューヨークにアートを教える大学があって、両輪で回っている。でも日本ではアートを教える先生が「あれは商業だ」と低く見ている傾向がある。でもそれだと業界自体が成り立たない。ぜひこちら側のエンタメを教える学校をつくってほしいです。作品だけではなく、デザインも含めて教えてくれるような。そういう学校を日本もつくらないと、産業自体がシュリンクしていく気がします。

庵野:高校からあってもいいくらいだよね。

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構成・文=岩坪文子 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=大谷亮治、楢林未奈子

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