映画

2025.12.24 08:30

「子ども向けが少ない」庵野秀明・山崎貴が抱く危機感と日本発エンタメ・文化の未来

庵野秀明(写真右)・ 山崎 貴(同左)

庵野:そうなんです。少なくとも、自分に関しては思考が日本語で、英語は挨拶くらいしかできません。日本語による思考でできている作品は、やはり日本語でしか理解しづらい。映像は、視覚や音楽の要素があるので、ほかの分野と比べて言葉の壁が少ないと思うんですが、それでもセリフは日本語だし、日本語での思考による感情で動いている人たちのドラマなので、それが理解できる人たちならば、海外でも受け入れられると思いますが、こちらからは合わせられないんです。申し訳ないけど、お客さんのほうで合わせてください、という。

advertisement

ゲームはまだ双方向性を考えてつくれますが、映像に関しては一方向なんですよね。観る人の文句はつくり手には返ってこない。これはもう仕方がない。だからつくる人が「これが面白いんだ」というのを信用してやるしかない。だからそこはドメスティックでいいと思います。ジブリも宮﨑(駿)さんのドメスティックでつくっていて、海外のことは1ミリも考えていないように思います。そういうのはそこから先でやればいい、と。僕もそう思います。商売を考える人が作品を商品に変換して売っていってくれればよい。

日本の作品がこれまで海外に出ていないのは、売り方が下手なところもありますよね。頑張ってはいますけど。それでも、韓国や中国作品が多く海外に出ていってくれたおかげで、東洋人の顔に対するアレルギーはだいぶ減りましたね。それは大きい。先ほど山崎くんが言った通りだと思います。

山崎:庵野さんが「お客さんが合わせてくれ」と言いましたけど、10年とは言わずに、この5、6年でチューニングが済んだ、という感じですね。それは本当にストリーミングのおかげだし、中国、韓国作品のおかげだと思います。

advertisement

庵野:ストリーミングやサブスクモデルが普及しても、現場は変わりません。むしろ本数が増えて大変そうですが、商売の仕方は変わりましたよね。もうDVDなどのソフトは売れない傾向にあります。業界では円盤と呼んでいますが、円盤が売れなくなった代わりに、配信が買ってくれる。その前提で製作費を回収することになりました。ただ、それにも良し悪しがあると思います。配信に頼り切ると、「ムーブメント」にならないんです。いわゆる社会現象にならない。個人で観たいときに観れてしまうので、共通体験としては弱いですよね。

山崎:僕も今のところ劇場体験にはこだわっています。(ストリーミングは)お祭り感がないですよね。最近はお祭り感を醸成する宣伝の仕方など工夫したりしていますが、まだサーッと流れて消費されてしまう感覚がある。劇場で公開するほどの熱量がない。僕は、劇場に来たときに100%楽しめるような作品づくりを心がけています。単純にそのほうが楽しいというのもあるんですが大スクリーンで観る「体験」になりうる、そういう作品をつくっていかないと、もう劇場までお客さんがわざわざ観にきてくれないのではないか。そういう作品をつくらなくては、と思います。

庵野:楽しみ方としては、スマホもサブスクもありだとは思います。人口的には映画を観に来ない人のほうが多いですから。そのつくり方のすみ分けはこれから細分化していくのかな、と思いますけど。ただ映画をスマホで見ても、映画の面白さは完全には伝わらないので、できれば映画館で観てほしいなというのはあります。

山崎:『鬼滅の刃』みたいなのが当たると、ありがたいんですよね。悔しいですが(笑)。普段映画館に来ない人が、劇場の体験を楽しいと思って、また足を運んでくれる。今の劇場は昔と比べて、音響もいいし、すごくいい場所になっているということを体感してくれる。超絶ヒット作があるときが、スマホで観るのとは全然違うんだ、と認識してくれるタイミングですよね。大体ジブリのあとに公開した僕の作品は当たっているんですよ。「ジブリスリップストリーム」と呼んでいるんですけど(笑)。そういう流れができると、業界全体が潤いますよね。

次ページ > 子ども向けのアニメーションが少ない

構成・文=岩坪文子 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=大谷亮治、楢林未奈子

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事