優れた起業家やクリエイターなど「世界を変える30歳未満」を部門ごとに30人選出するアワード企画、フォーブス『Forbes 30 Under 30』。次世代をけん引する若い才能に光を当てるアワードで、米『Forbes』が2011年12月より開催し、世界的に注力している企画だ。米国版をはじめ、欧州版、アジア版、アフリカ版など、25カ国・地域で開催し、世界規模へと成長している。Forbes JAPANでも2018年より「Forbes JAPAN Forbes 30 Under 30」を開催しており、8年間で総計330人を選出してきた。
また、2025年の日本版はすでに実施済みで、「自分が思うより良い未来」を目指す30人を選出している。
本稿では、「Forbes 30 Under 30」の15周年を記念して、このリスト出身のビリオネアの中から注目すべき15人を紹介する。またその後に、ビリオネアとなった出身者31人の一覧を掲載する。
「Forbes 30 Under 30」の歩みと、若い才能が形作るビジネスやカルチャーの未来
フォーブス「Forbes 30 Under 30」からは、これまで46人のビリオネアが生まれている。そこには、サム・アルトマン、アレクサンダー・ワン、テイラー・スウィフトなどが含まれている。
フォーブスが次世代を担う起業家やリーダーをいち早く紹介することを目的にする、Forbes 30 Under 30を最初に発表したのは2011年12月19日のことだ。それ以来、Forbes 30 Under 30は毎年、20の異なるカテゴリーからビジネスやカルチャーの未来を形作る若手を選出してきた。
保有資産が約1570億円を超え、ビリオネアにまで上り詰めた46人の出身者
Forbes 30 Under 30に名を連ねた人々はその後、ビジネス、科学、テクノロジー、エンターテインメントの分野で大きな成果を上げている。だが、その中で保有資産が10億ドル(約1570億円。1ドル=157円換算)を超えるビリオネアに上り詰めた人物は46人のみだ。こうした若手の富豪は、ソーシャルメディア、フィンテック、小売業など多様な分野で成功を収めており、音楽業界ではテイラー・スウィフトがその象徴的な存在だ。
AI分野が牽引、前例のないスピードで新たなビリオネアが誕生
なかでも、近年の人工知能(AI)ブームは、突出したスピードで新たな富豪を生み出している。この分野への投資熱を背景に、2025年に入ってからだけで、Forbes 30 Under 30出身者19人が新たにビリオネアとなった。
こうした新興の富豪のうち8人は、直近の1年でビリオネアとなり、なおかつ現在も30歳未満のままだ。その中には、AIコード生成ツール「Cursor」を手がけるAnySphere(エニイスフィア)の共同創業者4人が含まれる。25歳のスアレ・アシフ、アマン・サンガー、マイケル・トゥルーエル、そして26歳のアルビド・ルンネマルクだ。ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)から最近、大型投資を受けた予測市場Polymarket(ポリマーケット)の創業者、シェイン・コプランも名を連ねる。
史上最年少のビリオネアとなった22歳
また、AI人材分野のユニコーン企業Mercor(メルコア)を共同創業した22歳のブレンダン・フーディ、アダルシュ・ヒレマス、スーリヤ・ミッドハの名もある。この3人は10月、評価額100億ドル(約1.6兆円)で3億5000万ドル(約550億円)を調達し、史上最年少のビリオネアとなった。これまでこの記録を保持していたのは、23歳でビリオネア入りしたマーク・ザッカーバーグだった。ザッカーバーグもForbes 30 Under 30に選ばれているが、当時すでにビリオネアだった。
2025年はこのほかにも、Forbes 30 Under 30出身者が関与する大型投資があった。6月には、メタが、28歳のAI起業家アレクサンダー・ワンが率いるScaleAI(スケールAI)に143億ドル(約2.2兆円)を投じ、49%の株式を取得した。この投資によって、ワンの資産は50%以上増加し、直近では32億ドル(約5024億円)に達した。また、2018年のForbes 30 Under 30にワンとともに選ばれた共同創業者ルーシー・グオの資産も14億ドル(約2198億円)に増え、彼女は現在、世界で最も若い自力で財を築いた女性ビリオネアとなっている。
ビリオネア46人のうち12人はAI関連企業を構築、テクノロジー分野以外は3人
Forbes 30 Under 30出身のビリオネア46人のうち、12人はAIを中核に据えた企業を構築している。ただし、実際には46人のほぼ全員が、何らかの形でAIを活用しながら事業を進化させている。たとえば、アンカー・ジェインが率いるBilt(ブリット)は、カスタマーサービスにAIエージェントを導入し、顧客データの分析にもAIを用いている。また、メラニー・パーキンスが率いるCanva(キャンバ)は、AIによる画像生成や、100以上の言語への翻訳といった機能を提供している。
46人のForbes 30 Under 30出身ビリオネアのうち、テクノロジー分野以外の業界に属するのは3人のみだ。その内訳は、アスリートが1人(レブロン・ジェームズ)と、エンターテインナーが2人(テイラー・スウィフトとリアーナ)となっている。『Diamonds』や『Umbrella』といったヒット曲で知られるリアーナは、主に自身の化粧品ブランドFenty Beauty(フェンティ・ビューティー)の成功によって、2021年にビリオネアとなり、現在の純資産は10億ドル(約1570億円)だ。一方、テイラー・スウィフトは、音楽とパフォーマンスのみで富を築き、現在の資産は16億ドル(約2512億円)に達している。
出身者の中で最も資産額が大きいビリオネアは、バイトダンスの同創業者の張一鳴
Forbes 30 Under 30出身者の中で最も資産額が大きいのは、バイトダンス共同創業者の張一鳴(ジャン・イーミン)だ。張は、同社がTikTokを立ち上げる4年前の2013年に「Forbes 30 Under 30 China」に選ばれていた。TikTokの急速な拡大を背景に、張の資産は639億ドル(約10兆円)に達し、世界で26番目の富豪となっている。
張は、少なくとも14人の米国以外の国・地域出身のForbes 30 Under 30出身ビリオネアのうちの1人だ。その中には、中国、インド、アイルランド、フランスの出身者が含まれるほか、バルバドス出身のリアーナや、スウェーデン出身のSpotify創業者ダニエル・エクが含まれている。
なお、出会い系アプリBumble(バンブル)のホイットニー・ウルフ・ハード、フィンテック企業Brex(ブリックス)のペドロ・フランチェスキとエンリケ・ドゥブグラスなど少なくとも12人は、過去に一時的にビリオネアとなったものの、現在はその地位を失っている。
フォーブス「30 Under 30」出身、注目すべきビリオネア15人
1.ジャン・イーミン
直近の資産:639億ドル(約10兆円)
○主な資産源:バイトダンス○Forbes 30 Under 30選出年:2013年○年齢:42歳
ジャン・イーミンは2012年、北京の賃貸アパートで現在のTikTokの親会社であるByteDance(バイトダンス)を創業した。同社が最初に世に送り出したのは「今日頭条」というニュース集約アプリで、このプロダクトの成功によって、ジャンは29歳だった2013年に「Forbes 30 Under 30 China」に選ばれた。
2017年には、動画共有アプリTikTokが世界展開を開始した。ジャンがフォーブスによって初めてビリオネアと認定されたのは2018年で、その当時、ジェネラル・アトランティックからの投資を受けたバイトダンスの評価額は200億ドル(約3.1兆円)に達した。その後、TikTokを中核とする同社の事業は急速に拡大し、評価額は4800億ドル(約75.4兆円)にまで膨らんだ。2021年にCEOと会長の職を退いたジャンの現在の資産は639億ドル(約10兆円)で、世界で26番目の富豪となっている。
2.パトリック・コリソン
直近の資産:101億ドル(約1.6兆円)
○主な資産源:ストライプ○Forbes 30 Under 30選出年:2016年○年齢:37歳
パトリック・コリソンと弟のジョン・コリソンは2008年、最初に立ち上げた企業を売却し、10代でアイルランドのミリオネアとなった。その2年後、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生だった2人は、企業や加盟店がオンラインで決済を受け付けられるようにするフィンテック企業Stripe(ストライプ)を創業した。
コリソンは以前フォーブスに対し、同社の目的を「インターネット経済全体を加速させ、インターネットのGDPを高めること」だと語っている。ストライプはその後、米国での法人設立の支援や、定期支払いやサブスクリプションの管理と自動化などを手がける、包括的な金融プラットフォームへと進化していった。兄弟は「Forbes 30 Under 30 Europe」に選ばれてから11か月後、同社の評価額が90億ドル(約1.4兆円)を超えたことでビリオネアとなった。現在、ストライプの評価額は915億ドル(約14.4兆円)とされている。
3.ダニエル・エク
直近の資産:86億ドル(約1.4兆円)
○主な資産源:スポティファイ○Forbes 30 Under 30選出年:2012年○年齢:42歳
スウェーデン出身の音楽愛好家であるダニエル・エクは2012年、ストリーミングサービスのSpotify(スポティファイ)を立ち上げた起業家として、フォーブス「Forbes 30 Under 30」創設号の表紙を飾った。当時すでに、スポティファイは世界的な存在感を持つ企業となっていた。
エクはそれ以前の2006年、分析ソフトウエア企業Advertigoを20億ドル(約3140億円)で売却していた。そこから得た時間と資金の余裕を背景に、彼は自ら音楽に向き合うようになり、やがて音楽業界が抱えていた構造的な問題に目を向けるようになった。違法コピーの蔓延、CD販売の低迷、そしてデジタルプラットフォームの普及によってアルバム単位ではなく楽曲単位での消費が広がっていたことが、その代表例だった。スポティファイは2018年に上場し、エクはその直後にビリオネアとなった。2024年の売上高が180億ドル(約2.8兆円)に達した同社の株価は同年、100%以上も上昇した。エクは2025年にCEO職を退任すると発表した。
4.メラニー・パーキンス
直近の資産:76億ドル(約1.2兆円)
○主な資産源:キャンバ○Forbes 30 Under 30選出年:2016年○年齢:38歳
メラニー・パーキンスが共同創業したCanva(キャンバ)は、「誰でもアーティストになれる」ことを掲げるデザインプラットフォームだ。オーストラリア出身のパーキンスは、既存のデザインツールが複雑すぎて高価であると感じたことをきっかけに、2013年に同社を立ち上げた。
現在のキャンバは、個人ユーザーから企業顧客までを対象に、ウェブサイトの構築、グラフィック制作、製品のデザインと印刷、ソーシャルメディア向けキャンペーンの編集などを可能にしている。同社の評価額は2021年に400億ドル(約6.3兆円)に達し、パーキンスはビリオネアの仲間入りを果たした。これは、彼女がForbes 30 Under 30に選ばれる直前の2015年時点での評価額が1億6500万ドル(約259億円)だったことを踏まえると、大きな飛躍と言える。



