2025年秋、ノーベル経済学賞に選ばれたジョエル・モキイア教授。17年にも本誌に登場いただいた同氏に、Forbes JAPAN 12月24日発売号「2026年総予測 新時代がわかる『100の問い』」特集内で、あらためて独占インタビューを行った。
「まさか、『頂上』に到達できるとは思ってもみなかった」
2025年ノーベル経済学賞の共同受賞者のひとり、ジョエル・モキイア教授(米ノースウェスタン大学)は同賞を山頂になぞらえ、こう打ち明ける。受賞は青天の霹靂(へきれき)だったという。
彼は、50年もの歳月を経済史の研究に費やしてきた。専門は技術革新と経済成長だ。「技術の進歩による持続的成長の前提条件を特定した」(ノーベル財団)功績が受賞につながった。『知識経済の形成:産業革命から情報化社会まで』(長尾伸一・監訳、 伊藤庄一・訳、名古屋大学出版会)に、そのエッセンスが詰まっている。
受賞を逃しても「幸せな人生を送っていた」と話すモキイア教授だが、受賞で幸せが何倍にもなったことは想像に難くない。多忙を極める教授が取材に応じた。
──10月13日早朝、ノーベル経済学賞受賞の一報を聞いて、どう感じましたか。
実は当日、同賞の発表日を忘れていた。受賞候補に挙がっているとは思っていなかったからだ。ましてや受賞するとは……。
当日はガザ問題に心を奪われ、早朝から人質の釈放について調べていた。だが、「おめでとう!」という何本ものメールを見て、受賞日であることを思い出した。
そして、スウェーデンからの不在着信に気づき、電話をかけると、「ノーベル賞、おめでとうございます」という女性の声が聞こえた。妻と顔を見合わせ、「ワオ! なんてことだ!」と言い合った。
基調講演などへの招待状が届き、突如として「ノーベル賞受賞者」と言われるようになった。私は私なのだが、どうやら、世界はそう見てくれないようだ。
──受賞は青天の霹靂だったのですね。
その通りだ。専門が経済史という、ニッチな分野であることも、受賞を予想できなかった理由のひとつだ。
23年と24年、経済史の研究にノーベル経済学賞が与えられたため、3年連続で経済史の研究が選ばれる可能性は極めて低いと思った(注:本誌は25年2月号と3月号に、24年共同受賞者のジェイムズ・ロビンソン教授とサイモン・ジョンソン教授のインタビューを、それぞれ掲載)。
仮に受賞を逃したとしても、私は幸せな人生を送っていただろう。もちろん、ノーベル賞なら謹んで受けるがね。受賞後も、これまでやっていたことを続けていく。書きかけの本を必ず完成させたい。
──「賞を取るぞ!」と、狙いを定めていたわけではないのですね。
ノーベル賞を狙うことなどできない!
過去数十年間、技術の変化とイノベーションに大きな関心を寄せてきたが、研究を重ねていけば、成果を認めてもらえることもある。ノーベル賞は、数ある賞のなかでも「山の頂」さながらだ。山中をサイクリングしても、頂上にたどり着けない人は多い。私自身、てっぺんに到達できるとは思ってもみなかった。



