フェイスブックのCEOであるマーク・ザッカーバーグが、メタバースへの100億ドル(約1.6兆円。1ドル=155円換算)の投資を反映させるために社名をメタに改めると発表したとき、筆者はそれが大きな誤りだと公言した。
当時、筆者はメタバースという概念、とりわけXR(VRやARなどの総称)とAR(拡張現実)について多くの調査を行い、いくつかのVR(仮想現実)ヘッドセットも試していた。VRという概念が画期的になり得ることは理解していたが、筆者にはそれはよりニッチな領域に見えた。つまり、ゲームと、フィールドサービス(現場保守)や産業デザインのような一部の企業向けアプリケーションに影響する程度であり、メタバースを軸に会社名を変えるほどのものではないと考えた。
メタのメタバース方針転換は、業界全体の変革を示す
筆者は今もXR、VR、ARという概念を支持しており、時間の経過とともに企業と消費者の双方に影響を及ぼすとも考えている。しかし、AIが現在そして将来にわたり、デジタルに関わるあらゆるものへ影響を及ぼす支配的な包括技術になった。
したがって、メタがメタバース部門の予算を最大30%削減する計画を明らかにしたことは、筆者にとって驚きではなかった。企業が人工知能を中心に戦略を組み替える中で、テクノロジーの地殻変動が起きていることを示す明確なシグナルである。
市場の反応は象徴的だった。メタの株価はこのニュースを受けて約3.5%上昇した。投資家は実質的に、投機性の高い長期の賭けから資源を引き揚げ、今後10年の決定的な技術戦場になると彼らが見なす領域へ資源を振り向けようとする同社の姿勢を称賛している。
ここには劇的な転換がある。わずか数年前、マーク・ザッカーバーグはメタバースの可能性を強く確信し、その概念に合わせて会社全体の名称まで変えた。ところが、メタの直近の決算説明会では「メタバース」という言葉は一度も出てこなかった。これは見落としではなく、戦略的な見直しなのだ。
損得勘定は明快で、残酷ですらある。直接的な収益をほとんど生まないプロジェクトに数十億ドル(数千億円)を投じ続ける一方で、同等に高コストだが戦略上不可欠なAI関連施策にもその数十億ドル(数千億円)が必要となれば、どこかで帳尻を合わせざるを得ない。
AIリソースの逼迫
今目にしているのは、AI経済の現実が企業のバランスシートに直撃している姿である。競争力のあるAI能力を構築するには、あらゆる面で巨額の投資が必要になる。専用ハードウェアや最高水準の人材に加え、これらのシステムが要求する膨大な電力消費まで、例外ではない。この領域で競争力を保つための、費用対効果の高い道筋は見当たらない。
この資源圧力は、あらゆる企業施策をAIの観点から冷徹に評価することを迫っている。AI能力に直接貢献しない、またはAI投資を賄う収益を生まないプロジェクトは、過去にどれほど戦略的に重要とされたものであっても、ますます立場の弱いものになっている。



