「アートは成長のドライバー」経産省によるアワード創設の狙い

(Forbes JAPAN 2026年2月号より)

アートの「戦略的活用」へのシフト

こうした背景のもと実施されたアワードでは、「コーポレート・ストラテジー」「アートコラボレーション」「ニューアートビジネス」「ローカルインパクト」「アートマーケット」の5つの部門で、アートやアーティストとの共創に取り組む企業の実践例を募集した。

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従来のアート関連のアワードと異なるのが、文化としてのアートでなく、企業戦略としてのアートに重点を置いている点で、エントリーシートでも「どのような経済価値を期待したか」「得られた具体的成果は何か」などを明記するよう求めた。

ふたを開けてみれば、予想を大きく超える約150件のエントリーが寄せられ、また、新規事業開発やコーポレートブランディング、既存プロジェクトの価値向上といった、企業の経済活動の中心により近い領域の取り組みの応募も多く、企業がアートに向ける眼差しの質自体の変化がうかがえた。

アートとの協業、共創は、資本に余裕のある大企業や一部のクリエイティブ産業だけに限られるものではない。地方企業やスタートアップなど多様な業種・業態から、さまざまな取り組み事例が集まったことも、アートが企業の根源的課題に向き合う手段として受け入れられつつあることを示している。

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短期的な経済効果も、長期的な価値向上も

アートへの投資は、短期的なROIで語ることが難しい。「明確なKPIだけを回そうとすれば、たちまち価格競争や効率化に陥り、アートの本質から離れてしまいます」(藤井)。わかりやすい売り上げや集客増加といった経済的な回収そのものは否定しないものの、同時に「数値化できない価値」こそが、経済成長においてアートを活用する重要なポイントであるとみる。

例えば、支所や工場の地域での受容性を高めること、長年のプロダクトのイメージを刷新すること、企業の存在意義そのものを問い直すこと──こうした取り組みは、いずれも企業の発展と持続性に寄与しながらも、単純な収益指標には表れにくい。重要なのは、アートに向き合うことが企業が「なぜこの事業を行うのか」という根源的な問いに立ち返る契機となることにある。

アーティストが提示する視点は、組織的かつ計画的な企業文化のなかでは生まれにくい批評性と想像力をもたらす。新たな価値創出に貢献するアーティストやアートの存在は、今後、例えば広告代理店やコンサルティングファームに並ぶ企業の外部パートナー(あるいは内部人材)のひとつとして位置付けられるのではないか、と経産省は見据えている。

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文=深井厚志

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