「アートは成長のドライバー」経産省によるアワード創設の狙い

(Forbes JAPAN 2026年2月号より)

(Forbes JAPAN 2026年2月号より)

経済産業省は2025年、新たに「ART & BUSINESS AWARD」を立ち上げた。アートや文化芸術、その振興といえば一般的には文化庁の管轄だ。そこで今、経済産業省がアワードを立ち上げて目指す社会とは? 

5つのカテゴリーに対し、150件を超えるエントリーを得た手応えとともに、あらためて課題や現在地、可能性を見つめてみたい。


企業とアートの関係は、この40年ほどで大きく変化してきた。1980年代から企業による「見返りを求めない文化支援」としてのメセナが日本でも普及し、2000年代には環境問題やコンプライアンス強化を背景に、CSRの一環としての文化活動が定着。2010年代半ばからESG投資の考え方のもと文化の見直しの動きが見始められるものの、いまだ芸術文化は経営の「外側」に置かれたままの存在であった。

一方、今企業が直面しているのは、市場の成熟による経済の行き詰まりや、AI導入のなかでの差別化に対する困難といった、先行きの見えない現実である。

コロナ禍以降に加速度的にアートへの関心が高まるも、DIC川村記念美術館や資生堂アートハウスなど企業美術館の休館や閉館が続く今、多くの日本企業が模索するのは、企業戦略の中核に接続するような、芸術文化との新しい関わり方なのではないだろうか。経済産業省が2025年に立ち上げたART & BUSINESS AWARDが照らし出したのは、こうした変化の最前線にある企業の姿だ。

産業競争力への課題と創造性による突破口

「メセナ等を否定するわけではないが、CSRのロジックでの企業のアート支援は、コロナ禍以降持続性を保つのが難しくなっている」。そう語るのは、本アワードを率いる経産省の藤井亮介調査官だ。

世界のアート市場における日本のシェアは約1%に過ぎず、GDP比で見ても成長余地を大きく残す。市場の発展に企業の文化投資を促す必要があるものの、従来のロジックでは安定的、継続発展的な投資に限界がある。そんななか経産省が「アート市場」の拡大を見据えつつ着目したのは、他産業の活性化や企業の競争力向上に寄与する“触媒”としての位置づけだった。

ビジネスにおいて価格やスペックでの競争が限界を迎え、自動化が進む社会にあって、代替されない創造性は重要性を増している。アーティストがもつ独自の思考法や課題発見力は、企業にとってこれまで補えなかった領域を補完する可能性を秘めていると考えられ、経産省は、アートと経営の距離を縮めることを日本の産業全体の底上げにつながる戦略としてとらえている。

「企業が戦略的にアートにかかわることで企業価値を高める、という視点が重要なのだと考えました」(藤井)

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文=深井厚志

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