サイエンス

2025.12.17 09:30

福島原発事故で原子力発電から撤退したドイツ、核融合へ方向転換

ドイツ北部グライフスバルトのマックス・プランク・プラズマ物理学研究所で、実験用核融合炉の外装部品を溶接する作業員。2013年10月29日撮影(Sean Gallup/Getty Images)

ドイツ北部グライフスバルトのマックス・プランク・プラズマ物理学研究所で、実験用核融合炉の外装部品を溶接する作業員。2013年10月29日撮影(Sean Gallup/Getty Images)

2011年の福島第一原子力発電所事故以降、反原子力の象徴的存在であったドイツが今、大きな方向転換を図っている。同国はクリーンエネルギーの未来に向け、核融合研究を推進しているのだ。これは、安全上の懸念から原子炉を閉鎖し、再生可能エネルギーへの移行を進めてきたドイツ政府による15年間にわたる核分裂技術からの撤退とは対照的な動きとなる。

この変化は、放射性廃棄物を最小限に抑えながら、ほぼ無限にエネルギーを生み出す核融合技術への信頼性が高まっていることを示している。現代の原子力発電を支える核分裂とは異なり、核融合反応は本質的に安全で、最近の実験では一貫した正味のエネルギー利得が生み出され始めている。この画期的な成果は、米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の国立点火施設(NIF)で初めて達成され、その後数回にわたり再現された。

他方で、核融合の商業化にはまだ時間がかかる。核融合開発を手がける独フォーカスト・エナジーを共同で設立したトーマス・フォーナー最高経営責任者(CEO)は、信頼性の高い産業サプライチェーン(供給網)が確立され、発電所に必要な特殊鋼材や数千点に及ぶ特注部品を大量生産できるようになれば、核融合発電が向こう10年以内に実用化される可能性があるとしている。同CEOは筆者の取材に対し、「これは数十年にわたる科学的基盤が政策の野心と結び付く瞬間だ。ドイツの取り組みは、核融合がもはや遠い夢ではなく、21世紀の戦略的かつ拡張可能なエネルギーの選択肢であることを示している」と強調した。

太陽のエネルギー源である核融合は、水素の微小な原子同士を衝突させてエネルギーを放出させる。重い原子を分裂させて長寿命の放射性廃棄物を生み出す核分裂とは異なり、核融合は環境負荷を最小限に抑えつつ、ほぼ無限にクリーンエネルギーを生み出す可能性を秘めている。核融合の研究は数十年にわたって続けられてきたが、商業発電を実現するために必要なエネルギー利得が実験で示されるようになったのはごく最近のことだ。

2022年、LLNLのNIFで「点火」と呼ばれる画期的な成果が達成された。点火とは、投入したエネルギーより多くのエネルギーを生み出す核融合反応だ。最初の成功以来、同様の実験が複数回繰り返され、結果が再現可能であり、偶然の現象ではないことが確認された。

この画期的な成果は専門家同士の相互評価を通じて検証され、政策立案者や電力会社の間では、核融合が将来的に電力供給を支えるかもしれないという確信が高まりつつある。核融合は最終的に、信頼できるエネルギー源となる可能性がある。研究に携わった科学者らは「結果は外部専門家による検証を経ており、慣性核融合エネルギーの基礎的な科学的根拠を示している」と説明した。

次ページ > 産業と供給網の課題

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事