リーダーシップ

2026.01.14 10:15

ノーベル賞受賞者・山中伸弥が「実験は予想通りにならないから面白い」と言う理由

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調べてみると、マウスの肝臓にがんができていました。トムが発見したAPOBEC1という遺伝子は、コレステロールを下げるどころか、体のなかにがんをつくりだす遺伝子だったのです。これではとても、コレステロールを下げる治療に使うことなどできません。

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そのことをトムに伝えると、さすがにトムもがっかりしていました。でもその一方で、トムも私もワクワクと興奮する気持ちも感じていました。

予想もつかなかった不思議なことでしたが、1つの遺伝子がこれほど大きながんをつくりだすのを見て、科学者としての好奇心がむくむくと頭をもたげてきたのです。

私はどうしてもこの遺伝子とがんの関係を解明したいと思い、心臓病の研究ではなく、がんの研究がしたいとトムにお願いしました。トムはこころよく、そんなわがままを許してくれました。

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学生時代から何事も効率よくやることを心がけていた私は、グラッドストーン研究所でも1つの実験をしている待ち時間に別の実験をするなど工夫をして、ほかの研究者の3倍は働いていたと思います。

時間を忘れて研究に打ち込んだ

そのおかげで、私は新しい遺伝子を1つ発見することができ、この遺伝子をNAT1(ナットワン)と名づけました。

遺伝子の数はヒトもマウスもさほど変わらず、数万個だと言われています。世界には何万もの研究者がいるので、遺伝子を1つ見つけられたのは、とても幸運なことでした。

私が立てた仮説は、NAT1遺伝子にはがんをできなくする作用があり、APOBEC1のもつがんをつくる作用をおさえているのではないかというものでした。

NAT1遺伝子は、本当にがんができるのをおさえる役目を果たしているのか──。それを確かめるために、私はこの遺伝子が働かないようにしたマウス、ノックアウトマウスをつくる研究を始めました。

自分が見つけた遺伝子で、自分が立てた仮説を証明するための実験をするのはとても楽しく、私は時間を忘れて研究に打ちこみました。

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文=山中伸弥/京都大学iPS細胞研究所名誉所長

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