リーダーシップ

2026.01.14 10:15

ノーベル賞受賞者・山中伸弥が「実験は予想通りにならないから面白い」と言う理由

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のちに私がアメリカに渡り、グラッドストーン研究所で初めて自分に与えられた実験をおこなったときもまた、この3つのことを思い出しました。

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そのときの私のボスは、私がグラッドストーン研究所に入るきっかけとなる連絡をくださったトーマス・イネラリティ先生で、トムの愛称で呼ばれていました。私がトムから与えられたのは、遺伝子を変えたマウスをつくる実験でした。

トムはコレステロールについての研究をしていました。コレステロールは、かんたんに言うと体のなかにある脂のことで、これが血管の内側にたまってくると、血管を細くしたり詰まらせたりして心臓の病気の原因にもなります。

トムは肝臓のなかで、ある遺伝子が強く働くと、コレステロールが下がるのでは、という仮説を立てていました。その遺伝子は「APOBEC1(アポベックワン)」と名づけられていました。

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この遺伝子を使ってコレステロールを下げることができれば、新しい治療法ができて、心臓病になる人を減らすことにつながります。

この仮説を証明するために、APOBEC1の働きを強めたマウスをつくるというのが、私に与えられた任務でした。

意外な結果が新しい発見を生む

そもそも、私がアメリカに留学したいと願ったのは、このように1つの遺伝子を強く働かせたり、またある遺伝子を働かないようにしたマウスをつくる技術を学びたかったからです。

このような遺伝子を操作したマウスを使うと、薬理学の研究はぐんと進みますが、当時の日本には、こうした技術を取り入れた研究室がほとんどありませんでした。

私は研究所のスタッフとともに何か月かかかって、APOBEC1の働きを強めたマウスをつくることに成功しました。

ところがある日の朝、スタッフの女性があわてた様子で駆けこんできて、こう言ったのです。

「大変よ、あなたのマウスが妊娠しているの」

私はけげんな顔をして、「マウスだって妊娠ぐらいするでしょう」と返事をしました。

「違うのよ、妊娠しているのは、オスなのよ」

彼女の言っていることが理解できなかったので、私はすぐにマウスを見に行きました。たしかにマウスのおなかはパンパンに膨れ上がっています。

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文=山中伸弥/京都大学iPS細胞研究所名誉所長

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