ビジネス

2025.12.18 15:15

対人恐怖症を乗り越え、孤独を力に変えた起業家の挑戦

AIと働くことが当たり前になるスピードは、私たちが思う以上に速い。便利さが増すほど、人は画面の前でひとり静かに仕事をこなす時間が長くなり、効率化の裏側で人間らしいつながりが薄れ、誰にも気づかれないまま深まっていく静かな孤独。それは、現代の働き方が生み出した新しい課題でもある。

そんな時代に、「孤独とどう向き合うのか」という根源的なテーマを問い続ける起業家、森井駿介氏に出会った。彼は、挑戦する人が避けようとしてきた孤独を"美しいもの"へと転換し、その視点をプロダクトへ昇華させている。

挫折から始まった起業家人生

森井氏の起業家人生は、挫折から始まった。学生時代に街コンや飲食店経営などを手掛け、大学卒業の頃には月商1000万円規模に成長。「日本を代表する企業にする」という夢に向かい、朝一番にオフィスへ入り、最後に電気を消して帰る激務の日々は、やがて自律神経を狂わせ、彼を対人恐怖症へと追い込んだ。

親しい友人や家族とさえ顔を合わせられず、動悸やパニックに襲われる。事業の継続は困難となり、会社は共同創業メンバーに託すしかなかった。次に挑んだチャットボット事業も、対人恐怖症の影響で営業の現場に立つことができず、涙ながらに仲間に謝罪して幕を閉じた。悔しさと「自分だけが取り残された」という孤独が彼にまとわりついた。

Teracy 森井駿介氏
Teracy 森井駿介氏

世界放浪という旅

その日から、彼の長い旅が始まった。キャリーケースひとつに全財産を詰め込み、国内外を転々とする。異国のホテルで窓の外を眺めながら、誰とも言葉を交わさず食事をする日々。「俺は一体どこまで行けば、この自分から逃れられるんだろう」そんな問いを抱えながら過ごした。

しかし、逃げるように訪れた海外が、彼に別の現実を突きつけることになる。途上国を巡るなかで目にしたのは、場所が違うだけで人が得られる選択肢が大きく変わるという、世界の理不尽さだった。三重の商業高校から京都へ進学し起業した自分の人生と、生まれた場所によって機会を奪われている人々の現実。その対比が、逃げていたはずの彼の中に、再び起業家としての炎を灯し始めた。

「自分は逃げるように世界へ出たのですが、そこで出会った現実に打ちのめされました。途上国に行けば行くほど、この世界はアンフェアだと痛感しました。場所の制約によって機会が奪われていく。日本に生まれた自分はなんて幸運だったのかと実感し、この"場所の制約"を解き放ちたいと考えるようになりました」(森井)

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文=西村真里子

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