転機、そしてTeracyへ
転機は23歳、バリ島で訪れる。クラウドソーシングで得たUI/UXデザインの仕事で、Skypeを通じてメンターとつながった。対人恐怖症ゆえ顔を出せなくても、ただそこに仲間がいると感じられた瞬間、「自分はひとりじゃない」と思えた。小さくても成長を実感できることが、孤独を前へ進む力に変わった瞬間だ。
その体験を原点に、2019年夏、森井氏は「孤高の挑戦者に寄り添うプロダクト」を構想する。6年の開発を経て今夏リリースした「Teracy」は、仲間の存在を感じながら作業に集中できるコワーキングアプリだ。話さなくてもいい。ただ「そこに誰かがいる」という気配が、孤独を和らげてくれる。
「Teracy」が解く、3つの孤独
森井氏の課題意識をプロダクトとして変換したものが「Teracy」だ。設計思想は明快だ。「顔を出さなくても、ただ一緒にいる」「世界中の人が繋がれる」というもの。具体的には、現実のオフィスで起こる「目が合う」「環境音が聞こえる」「同僚がまだ残っている気配がする」そうした非言語の"在り方"をオンラインで体感できるものだ。テキストや会議で用件を処理する前に、「人と時間を共有している」という実感を立ち上げるのだ。

TeracyのUIにおいて主役は「情報」ではなく「人」である。テキストフィードを流すのではなく、まず仲間の"存在"が視界に入る。ライブステータスで「いまデザイン中」「開発中」といった動きが自然に伝わり、会話の瞬間にアバターが反応する。微細な感情やリズムの揺れをUIが媒介することで、「話さなくても同じ空間にいる」感覚が生まれる。
既存ツールとの違いはここにある。ZoomやMeetが「会議室に集まる」同期的な行為に最適化され、SlackやDiscordが「テキストで共有する」非同期の行為に特化してきたのに対し、Teracyはその狭間である現実世界では当たり前に扱われる「存在」や「気配」を提供するのだ。
他のリモートワークツールへのからの乗り換えは不要だ。SlackやDiscordと併用し、「情報はテキストで」「存在はTeracyで」と分担することで、チームの一体感が増し、雑談や相談が "わざわざ" ではなく "ついでに" 生まれていく。
森井「ZoomやSlackだけの世界だと、夜オフィスに行けば "まだ残ってる人がいる" みたいな当たり前が見えないんです。Teracyは、ただ開くだけで誰が いま いるのか、気配が伝わる。深夜に『まだやってるんだ』が分かると、自分ももうひと踏ん張りできるし、翌朝『昨日は大丈夫だった?』って自然に声がかかる。その時間共有の感覚をオンラインに作りたいのです」


