「エコシステムの中で思考すること」を学ぶ
「エコシステムの中で思考すること」には、マインドセットの転換が求められる。リーダーは、「どう勝つか」ではなく、「我々はどんなゲームをプレイしており、そこで価値を生むには誰を巻き込むべきか」という問いに向き合うことになる。こうした姿勢は、エゴをゆるめて視野を広げるものだ。
組織心理学における有用な概念に、相互依存理論がある。これは、成果に対しては関係性が、個々の努力以上に大きな影響を与えることを説明する理論だ。相互依存性を理解しているリーダーは、インセンティブと信頼、協調の構造に注目する。その上で、パートナーシップを、「とり得るオプション」ではなく戦略的資産と捉える。
実際的な用語を使えば、エコシステム思考は、システムの構成要素をマッピングすることから始まる。自分たちの成果に対して、誰が影響を与えるか。誰が自分たちに依存しているのか。互いに共通する制約は何か。システムを明確に把握することで、リーダーは、利害対立ではなく利害調整を図る戦略を策定できる。
同時に、コミュニケーションの仕方も変わる。リーダーは、確信に満ちて一方的に発信するのではなく、さまざまなグループ間で意味のすり合わせをしなければならない。情報を守るのではなく共有し、他の人々が適応できるようにする。そこでは戦略は、単一の固定された計画というより、協調的な即興へと変化する。
パートナーには早くからコミットメントを求めず、まずは、どのような制約を抱えているのかを確認する習慣をつくることは役に立つ。制約を知ることで、できることが明らかになり、コミットメントは後からついてくる。
このようなシンプルな姿勢転換によって、対立や調整不足を避け、標準的な交渉スタイルよりも迅速に信頼を構築することができる。
連携による戦略の構築
組織が協調関係をリードするためには、連携をシンプルな習慣に変える構造を設計しなければならない。リーダーは、いくつかの実践的な方法でこれを実現できる。
第1に、パートナー間で共通の指標を設定しよう。それぞれが、成功を異なる尺度で測るようだと、協調は崩壊する。しかし、全員が同じ成果を追求すれば、意思決定はおのずと1つにまとまる。
第2に、組織を越えたレビューを定期的に実施しよう。こうした対話は、摩擦を洗い出し、失敗に発展するのを防ぐ。またこれは、戦略が単一の組織内にとどまらず、協調関係の全体にかかわるものだという認識を強化する。
第3に、寛容さを示そう。リーダーが即時の見返りを求めずに価値を提供すれば、エコシステムは成長する。純粋な競争の世界では閉ざされているような扉が、透明性や、支援を提供するちょっとした振る舞いによって、開かれることは多い。
最後にそれぞれのチームに対して、「介入すべきでない時」について認識することを教えよう。当事者のそれぞれが、「自分たちだけができる仕事」に集中するとき、協調関係は最も効果を発揮する。過剰な統制はシステムを遅延させるが、適切な信頼はシステムを加速させる。
戦略の最前線は変化した。今や企業の強みは、自社の製品やアイデア、実行力の質だけでなく、自社が構築するつながりの質からも生まれる。このことを理解しているリーダーは、競争を放棄するわけではなく、競争をより深いレベルに据えているのだ。それは、誰も単独では達成できない目標に向かって、多様な集団を連携させる能力にほかならない。
戦略は、もはやライバル同士の競争ではない。今の戦略は、協調のトレーニングだ。これを極めた組織が、全体の歩調を決めることになる。


