サイエンス

2025.12.17 18:00

NBP写真コンテスト「悲しき受賞作」の裏側にある物語

鉄条網をくぐるオオヤマネコ By © Xingchao Zhu, Shenzhen City, China. Photos courtesy of Nature's Best Photography, All rights reserved.

2. 鉄条網をくぐるオオヤマネコ(中国、青海省海西モンゴル族チベット族自治州、都蘭県)

記事冒頭の写真は、トゲトゲしい鉄条網に危なっかしく体を押しこもうとしているオオヤマネコ(学名:Lynx lynx)を捉えている。この写真に見られるコントラストは、遠く人里離れた生息環境でさえ、私たち人間の影響と無縁ではないことを改めて伝える。

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オオヤマネコは、ユーラシア最大級のネコ科の種で、つながりあった広大な森林に頼って存続可能個体数を維持している。だが、アルプス山脈からアルタイ山脈までの地域では、そうした森林の連続性が、人間のインフラに脅かされている。道路、鉄道、フェンスが、オオヤマネコの移動する「回廊」を分断しているのだ。そしてそれが、生態的にも遺伝的にも孤立を生む。

『Global Ecology and Biogeography』で発表された2023年のメタ分析によれば、道路交通は、危機にある陸生哺乳類の行動に極めて強烈な影響を及ぼしている。とりわけ、特殊化した生息場所の選択を強いられることによる影響が大きい。

オオヤマネコのような単独性の肉食動物にとって、こうした分断は、手に入る獲物や交尾相手を制限するだけでなく、負傷や死のリスクを高めもする。鉄条網のような障壁は、たいていは家畜を念頭に設置されているものの、中型から大型の哺乳類を巻きこむこともめずらしくない――この写真を思えば、容易に想像がつくだろう。そしてそれが、移動や繁殖を損ない、ひいては長期にわたる遺伝的な存続能力を損ない、オオヤマネコの絶滅リスクを悪化させている。

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この写真は、瞬間的な残酷さを表すものではない。この写真が表しているのは、排除の構図だ。あらゆるフェンス、あらゆる道路が、野生が意味するものの地図を描きかえているのだ。

こうした写真が重要である理由

スリランカの管理されていないゴミ捨て場と、鉄条網がはりめぐらされた中国の草原。どちらの写真も、生物の絶滅に人間が加担していることに注意を向けるよう促す、生態学的な哀歌と言える。スリランカでも中国でも、解決策は手の届く範囲内にあるが、これらの国とその政策は、資金よりもはるかに貴重なものを必要としている――それは共感だ。

これらの写真のような芸術作品には、そのギャップに橋を架ける力がある。写真を撮影したカルナラトナ(Karunarathna)とジュウ(Zhu)の作品は、データを感情に変える。そしてそれが、統計値だけでは生み出し得ないものを私たちに感じさせるのだ。

forbes.com 原文

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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