サイエンス

2025.12.17 18:00

NBP写真コンテスト「悲しき受賞作」の裏側にある物語

鉄条網をくぐるオオヤマネコ By © Xingchao Zhu, Shenzhen City, China. Photos courtesy of Nature's Best Photography, All rights reserved.

鉄条網をくぐるオオヤマネコ By © Xingchao Zhu, Shenzhen City, China. Photos courtesy of Nature's Best Photography, All rights reserved.

野生の生物たちの写真は、動物界の威厳を称えるものになることが多い。だが、なかには悲劇を浮き彫りにするものもある。そうした写真は、環境汚染や、生息環境の喪失、生存と産業拡大の板挟みになった種など、人間が野生生物の世界に及ぼす影響にまつわる、居心地の悪い真実を私たちに突きつける。

2025年のネイチャーズ・ベスト・フォトグラフィー(NBP)コンテストでは、そうした意味で心をかき乱す2作品が受賞作に選ばれた。いったいなぜ、この2作品が現代の保全をめぐるひときわ切迫したメッセージを伝えているのか、その理由を説明しよう。

1. ゴミの山のなかにいるアジアゾウ(スリランカ、アンパラ県――カテゴリー最優秀賞

By © Lakshitha Karunarathna of Colombo, Sri Lanka. Photos courtesy of Nature's Best Photography, All rights reserved.
By © Lakshitha Karunarathna of Colombo, Sri Lanka. Photos courtesy of Nature's Best Photography, All rights reserved.

この写真で私たちが目にするのは、人間が捨てたゴミの山と、そのなかで餌を探す堂々たるアジアゾウ(学名:Elephas maximus)のくっきりとしたコントラストだ。どこまでも広がるゴミ捨て場は、アジア屈指の生物多様性ホットスポットにおける、生態系と経済の衝突を映し出している。

アジアゾウは、種子の拡散と健全な森林の維持に欠かせない存在だ。だがスリランカでは、森林伐採と農地拡大により、アジアゾウの生息地は、かつての範囲と比べるとごく一部に圧縮されている。自然な採餌のできる場所がまばらになった結果、アジアゾウが、人間の集落の端にあるゴミ捨て場に依存することが増えている。

『Biodiversity and Conservation』で発表された2024年の研究によれば、現在スリランカにいるゾウのうち3%は、保護区の外で暮らしているという(同国のゾウたちは、すでに国際自然保護連合[IUCN]のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている)。保護区外では、頻繁に人間と遭遇し、それにより死に至ることもめずらしくない。そうした状況から、避けられたはずの人間とゾウの衝突により、毎年ゾウ400頭と人間200人を超える犠牲が出ている。

言うまでもないことだが、ゴミ捨て場にあるプラスチックを食べることも、ゾウを大きな危険にさらす。死んだゾウを解剖した研究では、胃のなかから数kgのポリエチレンが見つかるケースも多く、たいていは飢餓、腸閉塞、中毒が死因として示唆されている。

絶滅が危惧される種がゴミをあさらざるを得ない現実は、単なる「保全の失敗」を超えた重い意味をもつ。アジア屈指の大きくて美しい陸生動物が、飢えか毒かを選ばなければならない状況は、倫理的に受け入れられるものではない。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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