シンガポールのタイヤメーカーGiti Tire(ジーティー・タイヤ)会長のエンキ・タンは、電気自動車(EV)分野における主要サプライヤーの地位を確立し、世界のタイヤメーカー上位10社入りを目指している。
EVハイパーカーの記録を支える技術と、トップ10入りへの挑戦
9月のある晴れた朝、中国のEV大手BYDの電動ハイパーカー「ヤンワンU9エクストリーム」は、ドイツのテストコースで最高速度496.22kmを記録した。この速度は、2019年にブガッティの「シロン・スーパースポーツ300+」が記録した490.48kmを上回り、世界最速の量産車となった。その1カ月前には、全長約21kmのニュルブルクリンク北コースにおいて、7分を切るタイムを記録し、EVとしての最速ラップを達成していた。同コースは、ドイツ・アイフェルの森を抜け、300メートルの高低差と70以上のコーナーを持つ山岳コースとなっており、「グリーン・ヘル(緑の地獄)」とも呼ばれる。
3000馬力超の車両を支える、Giti Tireの高性能タイヤ
U9エクストリームの約2.5トンに及ぶ車体の下には、合計3000馬力超を生み出す4基の30000rpm高性能モーターが搭載されている。その足元を支えているのが、シンガポールに本社を置くタイヤメーカーGiti Tireの「GitiSport eGTR2 Pro」だ。EV向けタイヤ市場で静かに存在感を強めてきた同社が、最新テクノロジーを結集したのが、このセミスリック仕様の高性能タイヤだ。
極限の走行条件下で、超高速性能と鋭い応答性を発揮するよう設計されたこのプロ仕様タイヤは、Giti Tireの20年にわたるタイヤ技術と設計への投資の集大成だ。その陣頭指揮を執ってきたのが、57歳の会長のタンだ。医師から自動車業界の経営者へ転身した彼は、2003年に中国上場子会社のエグゼクティブディレクターとしてGitiに加わり、7年後にグループのトップに就任した。それ以降、Gitiを地域プレーヤーから、130カ国以上で製品を販売する世界的企業へと成長させた。
「ブータンに行っても、ニュージーランドに行っても、当社のタイヤを目にする」とタンは、10月にジャカルタで行われたフォーブスアジアの独占インタビューで語った。アイスランドを訪れた際には、現地でGitiのタイヤを見つけられるか友人と賭けまでしたというが、その賭けは的中した。
売上高約4805億円で世界15位、事業規模の拡大を狙う
業界誌タイヤプレスによると、Gitiは売上高ベースで世界15位のタイヤメーカーに位置づけられている。2024年の売上高が31億ドル(約4805億円。1ドル=155円換算)の同社は、ガソリン車とEVの双方に加え、二輪車、トラック、バス向けのタイヤを、年間1億本以上生産できる能力を持つ。インドネシアをルーツとする同社は、中国に3工場、米国とインドネシアにそれぞれ1工場の計5カ所の生産拠点を構えている。
タンは現在、Gitiを飛躍させ、タイヤ業界の世界トップ10に返り咲かせる準備が整ったと語る。現在のランキングでは、フランスのミシュランや日本のブリヂストンが長年にわたり上位を占めているが、Gitiは2015年に一時トップ10入りを果たしたことがある。
ただし、それは容易なことではない。現時点で業界10位に位置する中国メーカー、賽輪集団(サイラン・グループ)は、売上高49億ドル(約7595億円)、年間1億4000万本の生産能力を誇る。これを上回るためにGitiは、事業規模を大幅に拡大する必要がある。
顧客基盤の拡大を目指すタンは、Gitiの技術力に賭けている。「工場を建てて、製品を市場に投入するだけでは、もはや通用しない。独自のテクノロジーを構築し、成長の鍵となる市場に拠点を持ち、重要な成長パートナーと連携できるブランドだけが生き残る」と彼は語る。



