中国東部の自動車生産拠点、安徽省新工場で初の生産ラインを稼働
もっとも、Gitiにとって将来の成長余地が最も大きいのは本拠地のアジア市場だ。なかでも、2024年に3100万台の自動車が販売された世界最大の自動車市場である中国は、成長の中核を占めている。2025年上半期のGitiの売上高の約44%を中国が占め、インドネシアが26%で続いたと、同社は明らかにしている。
世界のタイヤ市場の成長は、アジア太平洋地域が牽引する見通しだと、ニルマル・バングのアガルワルは指摘する。欧州や米国では、自動車価格の大幅な上昇に加え、高金利が続いていることが逆風になっているという。ニューヨーク拠点のテックサイ・リサーチによると、中国のタイヤ市場は2030年に1020億ドル(約15.8兆円)規模へと拡大し、2024年の550億ドル(約8.5兆円)からほぼ倍増する見通しだ。これは、2030年までに2400億ドル(約37.2兆円)に達すると予測される世界市場全体の約半分に相当する。世界市場は、年平均で約11%の成長率で拡大すると見込まれている。
こうした需要拡大を見据え、Gitiは2025年、中国東部の自動車生産拠点である安徽省新工場で初の生産ラインを稼働させた。同社は2027年までに、年間約2300万本規模のフル生産体制へ引き上げる計画だ。
Gitiが業界トップ10入りを果たすためには、主要自動車メーカーとの関係を一段と強化するとともに、EVおよびSUV向けタイヤへの注力を高める必要があると、アガルワルは指摘する。「それが実現して初めて、業界で一般的に想定されている年率5%前後の成長を上回る、より高い売上成長が可能になる」と彼は語る。Gitiの過去3年間の売上高は、年率平均7.6%と、比較的緩やかな伸びにとどまっていた。
購買の一元化などでコストを抑制し、純利益を80%超伸ばす
Gitiが成長を加速させる過程で直面している課題の1つが、タイヤの主要原料である天然ゴムの供給不足だ。需要の拡大で原材料価格が押し上げられる一方、市場ではメーカー間の競争が激化し、価格面での圧力も強まっている。世界のゴム取引の指標とされる東京商品取引所のゴム先物価格は、年初来ではやや下落しているものの、2020年以降では約80%上昇している。過去3年間を通じて、Gitiの売上高のおよそ半分は、ゴムのほか、ナイロン、ポリエステルコード、スチールワイヤー、カーボンパウダーといった原材料の調達に費やされてきた。
こうした原材料コストの上昇が収益性に与える影響を抑えるため、Gitiは購買を一元化し、世界各地に分散する複数のサプライヤーからの調達を通じて、材料の大量購入によるコスト低減を進めている。また、リサイクルゴムやペットボトル由来の素材など、持続可能な材料を主に用いた新たなタイヤの試作品も最近導入した。こうした取り組みは成果を上げており、2024年のGitiの純利益は、前年の7100万ドル(約110億円から80%超増の1億2900万ドル(約200億円)に拡大した。
タンは、今後の市場環境について製品が「ますます高度化していく」中で、タイヤ技術も進化に歩調を合わせる必要があると指摘する。その一方で、こう警鐘を鳴らす。「製品を売るだけでは不十分だ。顧客に別の価値を感じてもらい、ブランドへの信頼を築くためのサービスが欠かせない」。
インドネシアの小規模店から始まったGitiの歩み
Gitiのルーツは、1951年にインドネシア・ジャカルタで創業された自転車用タイヤの小規模メーカー「ホック・タイ・ヒン」にさかのぼる。同社はその後、社名をガジャ・トゥンガルに改め、ゴム商人の家に生まれたインドネシアの実業家、シャムスル・ヌルサリムが創業者の1人として参画した。タンは、ヌルサリムの末娘シェリーと結婚している。また、Gitiの象のロゴは、インドネシア語で象を意味する「ガジャ」に由来する。
以降、ヌルサリム家は数十年にわたって事業を拡大し、インドネシアの工場を拠点に、オートバイ用タイヤから自動車、トラックなど幅広い車両向けタイヤの製造へと事業領域を広げていった。この過程で日本の井上ゴム工業と戦略提携を結ぶなど、他社向けの供給も手がけてきた。
1993年には、グループの非上場持ち株会社としてシンガポールにGiti Tireを設立。同年、中国・安徽省で自動車・トラック用タイヤ工場への投資を行い、中国市場に進出した。現在、Gitiは一族が保有する持ち株会社Giti Holdingsを通じて支配されている。インドネシアのタイヤ事業については、ガジャ・トゥンガルの株式49.5%を保有する形で関与を続けている。
ミシュランとの提携や中国進出を経て、世界的企業へ成長
その約10年後、Gitiは中国での事業基盤を強化するため、上海証券取引所に上場していたタイヤメーカー、華林輪胎の株式44%を取得した。同社はその後、「Giti Tire Corp.」へと社名を変更している。2004年には、ガジャ・トゥンガルがミシュラン向けにタイヤを製造する契約を結び、これに伴いミシュランは、ジャカルタ証券取引所に上場するガジャ・トゥンガルの株式10%を取得した。
ヌルサリムは、2025年の「インドネシアの富豪50人」ランキングで29位に名を連ねており、家族と合わせた純資産額は28億ドル(約4340億円)とされている。


