業界地図の変化と、グローバルブランドへの認知拡大
ロンドン拠点のコンサルティング会社、タイヤ・インダストリー・リサーチのデビッド・ショーCEOは、中国のEV市場に注力する戦略が、Gitiにとって世界市場シェアを拡大するための切り札になり得ると指摘する。「Gitiは、世界のタイヤメーカー上位10社入りという目標を、おそらく達成するだろう。唯一の問題は、そこに到達するまでにどれだけの時間がかかるかだ」とショーは語る。
大手メーカーのシェア低下を好機と捉えて攻勢
彼によると、GitiのEV重視戦略は、ミシュラン、ブリヂストン、グッドイヤー、コンチネンタルといった大手タイヤメーカーが市場シェアを落としつつある流れと重なっている。こうした大手に代わり、Gitiのほか、韓国のハンコック・タイヤ・アンド・テクノロジーや日本の横浜ゴムといった企業が存在感を高めている。これら企業は、高度に自動化された工場を通じて、高品質なタイヤを比較的低コストで生産できる点が強みだという。
「大手ブランドが苦戦しているため、Gitiが世界トップ10に入ることは十分に可能だ」とショーは付け加える(Gitiの上級経営陣には、ミシュラン出身の幹部も含まれている)。
タンが出張先でたびたびGitiのタイヤを目にするのは、同社を世界的に認知されたブランドへと押し上げようとしてきた彼自身の取り組みの成果でもある。2025年、Gitiと提携したフォルクスワーゲンの電動バンID. Buzzは「GitiSynergy H2」タイヤを装着し、ドイツのハノーバーを9月に出発して75カ国を巡る約8万キロの旅に乗り出した。
この遠征は、1セットのタイヤでEVが訪れる国数の最多記録更新を狙うもので、Gitiのタイヤにとっては性能を試す過酷な実証の場となる。「Gitiは、自社の技術力が本物だというメッセージを発信している」とショーは指摘した。
医師から転身した会長が、根本原因を見極める経営手法で成長させる
クアラルンプールで育ち、現在もマレーシア国籍を持つタンは、幼い頃から車に強い関心を抱いてきた。家族が自動車修理工場を営んでいた一方、生物学への興味からオーストラリアのシドニー大学で医学を学び、1992年に卒業した。その後、オーストラリア、香港、マレーシアの病院で6年間、麻酔科医として勤務し、2000年にMITでMBAを取得している。
医学の視点とビジネス分野の学びによって、課題の本質を解決
タンは、医師としての経験とビジネス分野の学びの双方が、Gitiで直面する課題への対応に役立っていると説明する。「医学では、どんな問題でも必ず原因を突き止めなければならない。ビジネスも同じだ。原因が分からなければ、対症療法に終わってしまう。問題の本質が解決されない限り、企業は成長しない」。
Gitiに入社して数年後、国際営業担当の取締役となったタンは、アジア、欧州、米国の自動車メーカーを訪ね、Gitiのタイヤを売り込むようになった。タイヤ販売の大半を占める交換用市場に比べると、OEM市場の規模は小さい。しかし、インド・グルグラムを拠点とするニルマル・バング・セキュリティーズの自動車株式アナリスト、ヤシュ・アガルワルは、OEM分野はタイヤメーカーにとってはるかに長い成長余地があり、自動車メーカーとタイヤ設計で協業できるほか、将来的に高収益が見込める交換用タイヤ販売につながる可能性があると指摘している。
厳しい審査を経てOEM契約を獲得し、信頼関係を構築
タンは、ドイツの大手自動車メーカーとOEM契約を結ぶまでに、長期に及ぶ交渉を重ねた経験を振り返る。審査プロセスには数年を要し、契約を獲得するまでの間、Gitiは厳格な製造基準への適合を確認するため、頻繁な監査を受ける必要があったという。
「主要メーカー1社の信頼を得ることができれば、ほかの関係構築への扉が開く」とタンは語る。「クルマ本体を除けば、目に入るブランドはタイヤだけだ。つまり、タイヤメーカーは自動的にその自動車ブランドを代表する存在になる。確実に供給できると信頼してもらわなければならない」。
米国工場に約868億円を投じ、関税リスクに対応
彼が足を運んだ場所の1つが、米国の自動車生産の集積地であるサウスカロライナ州だ。Gitiは、世界最大級のタイヤ市場の1つである米国に2005年からタイヤを輸出しており、2017年に同州チェスター郡に約15万8000平方メートルの工場と研究開発センターを開設した。現在同拠点では年間約500万本のタイヤを生産しており、米国で販売されるGitiのタイヤの約4分の1を占めるようになった(残りは引き続きインドネシアから輸入されている)。
タンは、総額5億6000万ドル(約868億円)を投じたこの施設の建設費が、アジアに同規模の工場を建てる場合よりも高額だったと認める一方で、米国の顧客との関係を強化し、サプライチェーンのリスクを低減するための投資だったと説明する。結果的にこの判断は先見性のあるものとなった。ドナルド・トランプ大統領が、中国やインドネシアからの製品を含む米国向け輸入品に対して大規模な関税措置を打ち出したからだ。
「結果的に、絶好のタイミングだった」とタンは語り、この拠点が米国市場へのコミットメントを示す役割も果たしていると付け加えた。


