モビリティ

2025.12.17 17:00

EV向けに注力、タイヤメーカーの「世界10社入り」に挑むシンガポール「Giti Tire」

WE_Si/Shutterstock.com

巨額の研究開発投資と、中国EV市場への早期参入

普段は主役として語られることは少ないが、クルマの加速や制動、走行時の安定性や操縦性は、路面と接する唯一の部品であるタイヤが左右すると、タンは指摘する。彼の試算によれば、Gitiは過去5年間で、乗用車および商用車向けタイヤの研究開発と製造拠点の双方に20億ドル(約3100億円)超を投じてきた。

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過去5年で約3100億円超を投じ、8つの指標を測定するセンサーなどに注力

安全性や耐久性といった基本要件に加え、エネルギー効率や、タイヤに組み込まれたセンサーによるスマートなモニタリングといった次世代の必須要素が求められている。タンによると、同社のセンサーは空気圧や温度など8つの指標を測定し、摩耗や劣化の状態を評価しているという。

Gitiの技術力を支えているのは、中国、ドイツ、インドネシア、米国に点在する4つの研究拠点で働く800人のエンジニアだ。「多くの人はタイヤを理解していない」とタンは言う。「『タイヤなんて簡単に作れる。ゴムを型に流し込めば、あとはタイヤが出来上がるだけだろう』と言ってくる人もいる。しかし、そんなに単純なものではない」。

その一例が、ヤンワンU9エクストリーム向けのタイヤの開発だ。BYD汽車工程研究院・ヤンワン研究所の責任者ヤン・フェンは、このプロジェクトでGitiが30種類以上のタイヤ設計案を提示したと明かした。「最高速度とラップタイムの両方で世界記録を狙うような極限の車両では、タイヤサプライヤーとの緊密な協業が不可欠だ」。

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BYDとGitiは20年以上にわたる協業関係にあり、今回のプロジェクトでもGitiが最有力候補となった。両社が共同開発したタイヤには、高速域での安定性を確保するため、高い引張強度を備えた特殊な繊維が用いられているという。「タイヤにわずかなズレや摩耗があるだけでも、車両の速度や安全性に重大な影響を及ぼし得る」とヤンは指摘する。

タンにとって、このプロジェクトはGitiの技術力を極限まで引き出す試金石となった。日常的な使用を大きく超える性能を備えた製品を生み出せることを示したからだ。「時速300キロでコーナーに進入すれば、タイヤには想像を超える負荷がかかる。こうした極限条件は、EVが直面する課題とも重なる」とタンは語る。

EV向けタイヤには、従来のガソリン車用とは異なる性能が求められる。車重が重いEVに対応する荷重指数の高さに加え、航続距離を左右する転がり抵抗の低さ、グリップ力を確保しつつ走行音を抑えるトレッド設計が不可欠だ。

EV向けタイヤは最も成長が速く、将来性が最も大きい事業分野に

GitiをEVタイヤの専門メーカーへと進化させ、成長を加速させるというタンの構想は、追い風を受けている。世界ではEVの普及が年々進んでおり、国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年にEVが世界の新車販売に占める割合は5分の1に達し、前年の18%から上昇した。政府補助金などを背景に世界最大のEV市場として先行する中国では、EVの販売台数が1100万台を超え、世界全体の約3分の2を占めている。

過去10年間で、EV向けタイヤはGitiにとって最も成長が速く、将来性が最も大きい事業分野になったとタンは語る。同社がタイヤを自動車メーカーにOEM供給している300モデルのうち、半数以上がEV向けだ。このデータは、7億5000万シンガポールドル(約900億円。1シンガポールドル=120円換算)の社債発行に関連して、同社がシンガポール取引所に提出した資料で明らかにされている。

中国でのEV製造初期から参入、主要サプライヤーの地位を築く

こうした実績を築けた背景には、長期的な視点に基づく判断があった。Gitiはかつて、インドネシアで日本の自動車メーカー向けにタイヤを供給する安定した立場にあったが、20年以上前に中国の自動車メーカー、奇瑞汽車(チェリー・オートモービル)と提携し、同社の人気小型車「QQシティ」シリーズ向けのタイヤ供給に踏み切った。

「私たちは、中国でEVの製造が始まった当初から、EV向けタイヤを販売してきた」とタンは語る。適切なタイミングで適切な場所にいたことが奏功し、Gitiは2010年にBYDから初のEV向けタイヤ供給契約を獲得した。これは、当初はガソリン車向けタイヤの供給から始まったBYDとの7年にわたる関係を発展させるものだった。

Gitiは現在、中国におけるEV向けOEMタイヤの主要サプライヤーの1社となっており、吉利汽車(ジーリー・オート)、小鵬汽車(シャオペン)、蔚来汽車(ニオ)といったメーカーを顧客に持つ。IEAによると、中国は世界最大のEV生産拠点であり、世界全体の生産量の70%超を占めている。

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翻訳=上田裕資

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