映画

2025.12.16 16:15

人生は試行錯誤の連続 映画『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』

スイスの山間部の小さな町で暮らすお針子バーバラ(イヴ・コノリー)(c)Sew Torn, LLC 『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』 12月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開

スイスの山間部の小さな町で暮らすお針子バーバラ(イヴ・コノリー)(c)Sew Torn, LLC 『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』 12月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開

誰にでも「人生、何のために生きているのか」がわからなくなる時がある。19日からヒューマントラストシネマ有楽町や新宿シネマカリテなど全国で公開が始まった映画「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」(米・スイス、2024年)も、人生に絶望しそうな主人公の悪戦苦闘を、シリアスとコミカルの両方から描いた映画だ。米カリフォルニア出身のフレディ・マクドナルド監督は「映画を通じ、主人公にとって本当に必要なものが何なのかを示したかった」と語る。そして、本作品はトランプ米政権に振り回される私たちにとっても示唆に富むお話になっているようだ。

友達も恋人もいない。亡くなった母親から受け継いだ裁縫店は倒産寸前。スイスの山間部の小さな町で暮らすお針子バーバラ(イヴ・コノリー)はある日、麻薬取引の現場に遭遇した。拳銃と大金の入ったトランクケースを前に、バーバラの頭の中に「完全犯罪(横取り)」「通報」「見て見ぬふり」の3つの選択肢がよぎる。

マクドナルド監督は映画学校に通う19歳当時、この映画の原点になる短編映画を製作した。高く評価され、長編映画の製作を勧められたという。「今は25歳。この映画を製作するのは長い旅のようだった」(同氏)。スイス・チューリヒから1時間ほど離れたパティスという山間の村で撮影を進めた。

主人公のバーバラの仕事はお針子(裁縫師)。バーバラが遭遇する犯罪の世界と一番関係がなさそうな仕事として選んだという。バーバラが積極的に人と語り合わない性格という設定上、顔の表情と糸を持つ手のしぐさが、演技のうえで重要なポイントになったという。マクドナルド監督の妹が裁縫好きで、バーバラが映画で遣う裁縫箱も妹から借り受けたという。バーバラは、犯罪や暴力には全く無力に見える裁縫用の糸を使って、犯罪者たちをきりきり舞いさせる。マクドナルド監督は「糸はとても繊細だが、時に非常に強い力を発揮する」と話す。

なぜ、バーバラは「3つの選択肢」で悩んだのか。マクドナルド監督は「バーバラはこの裁縫店に閉じこもり、しがみつこうとしている。それぞれの選択肢を通じ、バーバラが(無意識のうちに)現状から逃れようとする姿を描きたかった」と語る。「お針子という仕事そのものが彼女にとっての重荷。日本の観客にも、彼女が最終的にどうやって解放されるのかに関心を持ってほしい」と話す。

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文=牧野愛博

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