「規制の抜け穴」「無規制のギャンブル」と批判されるも、スポーツ賭博市場の動きが過熱
もっとも、Polymarketの急成長には批判も集まっている。ワシントンを拠点とする金融擁護団体「ベター・マーケッツ」の共同創業者兼CEO、デニス・ケレハーは、フォーブスに宛てたメールで、現政権による予測市場をめぐる規制緩和が、「規制の抜け穴」を生み出し、CFTCの監督下で「無規制のギャンブル」を可能にしていると指摘した。
ケレハーは、CFTCについて「こうした市場を規制・監督する専門性も能力も、人的・財政的リソースもまったく持ち合わせていない」と批判する。そのうえで、「新たな“ギャンブルの巣窟”から直接利益を得ようとしているトランプ家の支援を受けた状況で進む大規模な規制緩和と暗号資産ブームは、ほぼ間違いなく米国民にとって悪い結果をもたらすだろう」と警鐘を鳴らした。
一方で、規制緩和の波を逃すまいと、投資家や企業が一斉に動き始めている。ICEのスプレッチャーは、現政権のもとで暗号資産や予測市場に有利な規制変更が進んでいる点を挙げたうえで、こう語る。「これまでもイベント市場への投資機会はあったが、リスクが大きかった。だが規制環境が変わった現在なら、先行者になれると判断した」。
ここ数カ月で、トランプのSNS「トゥルース・ソーシャル」やスポーツベッティング大手のFanDuelに加え、暗号資産取引所のクリプト・ドットコム、コインベース、ジェミニが相次いで、予測市場を提供する計画を発表した。ロビンフッドのブラッド・テネフCEOも、3月に予測市場を自社プラットフォームに組み込んだことが、同社の第3四半期決算で個人投資家向け取引の過去最高水準の活況を後押ししたと説明している。
税制面の優位性を武器に、約2兆円規模のスポーツ賭博市場にも攻勢
「現在、人々はこの分野の可能性が無限に広がっていることに気づき始めている」と、2025年Polymarketに出資したビリオネアで、ヘッジファンド業界のベテランでもあるグレン・デュービンは語る。彼が引き合いに出すのが、スポーツベッティング企業だ。スポーツ賭博は州ごとにギャンブルとして規制され、課税対象となっている。たとえばニューヨーク州では、スポーツ賭博事業者の収益に対して最大51%の税率が課される。一方、連邦政府の枠組みで規制される予測市場は、州法を回避できるため、州税を免れたまま全50州で事業を展開できる。
2024年に137億ドル(約2.1兆円)の収益を生んだスポーツベッティング業界を、予測市場が根底から揺るがしかねない――そうした認識が広がる中、州のギャンブル規制当局からの反発があるにもかかわらず、企業は次々と参入に動いている。10月には、PolymarketとKalshiがスポーツ賭博事業者のPrizePicksおよび北米プロアイスホッケーリーグ(NHL)と提携を発表。Polymarketは、スポーツ賭博大手のDraftKings、総合格闘技団体のUFCとの独占提携も明らかにした。
データを金融商品に組み込みつつ、将来の収益化を目指す
この変化がもたらす影響は、スポーツ賭博の分野にとどまらない。ICEは出資と並行して、Polymarketのデータを自社の指数などのプロダクトに組み込み、投資判断の精度向上に役立てる方針だ。これにより、大手ヘッジファンドを含む数万人規模の機関投資家や、750社を超える外部のデータ提供企業が、Polymarketのデータにアクセスできるようになる。
ICEは、Polymarketと連携し、トークン化をめぐる取り組みも進めたい考えだとスプレッチャーは語る。トークン化とは、金融資産をブロックチェーン上のデジタルトークンに変換する仕組みで、これによってICEの取引所を利用するトレーダーが、時間帯を問わず、より柔軟に取引できるようになる可能性があるという。加えて11月には、グーグル・ファイナンスが検索結果にPolymarketとKalshiのデータを統合すると発表。ヤフー・ファイナンスも、Polymarketとの独占提携を明らかにした。
11月に過去最高の取引高約3720億円を記録するも、米国での正式サービスはこれから
もっとも、華やかな投資家や提携、そして11月に過去最高となる24億ドル(約3720億円)の取引高を記録したものの、Polymarketはいまだ米国で正式にサービスを開始しておらず、利益も出していない。コプランと投資家たちは、将来的な収益化の方法として、データ販売、利用者への手数料課金、あるいはイーサリアムやビットコインのような暗号資産トークンの発行などを示唆してきたが、具体策については明言を避けている。
現時点で確かなのは、コプランが自らに大きな賭けをしているという事実だけだ。「なにかに挑戦して失敗するほうが、“もしやっていたら”と一生思い続けるよりも、はるかにましだ」と彼は語る。
ニューヨーク証券取引所の建物の向かいに立つコプランは、外壁に掲げられたPolymarketのロゴ入りの横断幕を見上げていた。創業から5年、FBIの捜索からは1年が経った。建物から突き出す3本の星条旗のそばで風に揺れるその鮮やかなブルーの横断幕には、「Against all odds(あらゆる逆境を乗り越えて)」という言葉が記されていた。
※編注:本稿は情報提供のみを目的とするものであり、特定の暗号資産や特定サービスの利用を推奨するものではありません。
・日本の場合、暗号資産や独自トークンを業として取引する行為は、日本の金融庁・財務局に登録した暗号資産交換業者が行えます。登録がない暗号資産交換業者において、暗号資産を取引することは推奨しません。暗号資産を取引する際は、金融庁が公開している「暗号資産交換業者登録一覧」をご確認ください
・日本では、選挙・スポーツ・経済イベントを対象とする賭けを含め、オンライン上で行われる賭博行為は、刑法上の賭博罪などの対象となる犯罪とされています。海外で合法的に運営されているサービスでも、日本国内から接続して賭博を行えば賭博罪などに問われる可能性があります。運営者は賭博開帳図利罪など日本の刑法に問われ、刑事責任を負う可能性があります。また、広告・宣伝や決済に関与すると賭博幇助などに問われる場合があります。


