起業家

2025.12.17 13:00

【30UNDER30は今】牛の健康を管理する「スマート首輪」で酪農を変えるユニコーン企業

Dmitry Pichugin/Shutterstock.com

Dmitry Pichugin/Shutterstock.com

「世界を変える30歳未満」を部門ごとに30人選出するアワード企画、フォーブス『Forbes 30 Under 30』。次世代をけん引する若い才能に光を当てるアワードで、米『Forbes』が2011年より開催し、世界的に注力している企画だ。米国版をはじめ、欧州版、アジア版、アフリカ版など、25カ国・地域で開催し、世界規模へと成長している。Forbes JAPANでも2018年より「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」を開催し、これまでに約300人を選出した。

advertisement

本稿では、2021年のアジア版「30 Under 30 Asia」に選出されたクレイグ・ピゴット(31)を紹介する。ピゴットが創業したニュージーランドのユニコーン企業Halter(ホルター)は、酪農や畜産分野の動物を囲う物理的な柵(フェンス)を置き換える仮想フェンス(バーチャルフェンス)市場で最も急成長する企業の1つだ。

スマホ画面で牛を誘導する仮想フェンス技術により、牧場運営の労働時間を大幅に削減

クレイグ・ピゴットのスマホの画面には、約100個の小さな黄色のドットが三角形の中に表示されている。このドットのそれぞれは、ニュージーランドの農村地帯ワイカトにある彼の家族の酪農場で飼育されている牛の位置を表している。牛の首には、通信機能を備えた太陽光パネル付きの「スマート首輪」が装着されている。ピゴットがスマホを操作すると、牛は一斉に顔を上げ、新しい牧草がある場所へと歩き出す。

こののどかな光景は、ニュージーランドのオークランドを拠点とする創業9年のHalterの物理的な柵を置き換える仮想フェンス技術が、牧畜にどのように利用可能かを示すためのデモ動画の一場面だ。同社のスマート首輪は、音やバイブレーションを利用して、牛を牧草地の新たな区画へ誘導したり、境界内にとどめたりできる。31歳のピゴットは、同社の主要な支援元のベンチャーキャピタル(VC)が拠点を置くサンフランシスコからのビデオ通話で、フォーブス・アジアの取材に応じた。「当社の製品は、週に20〜40時間の労働時間を短縮できる。私たちの目標は、仮想フェンスという製品カテゴリーを、農場や牧場の運営に欠かせないものにすることだ」と彼は語った。

advertisement

ニュージーランドを中心に急成長し、酪農家が土地を最大限に活用できるよう支援

ピゴットは、酪農家の収益の最大化をミッションに掲げている。彼が率いるHalterは、まだ黎明期にある仮想フェンス市場で最も急成長する企業の1つだ。同社の首輪は、ニュージーランドやオーストラリア、米国の1300の乳牛や肉牛の農場で使用され、約65万頭の牛を管理している。これまでに設置された同社の仮想フェンスの総延長は80万9300キロメートルに達しており、人口よりも牛の数が多いニュージーランドが、顧客基盤の4分の3以上を占めている。

世界の土地の生産性を高めるため、米国市場での展開をはじめ南米や欧州への進出を計画

Halterは現在、世界有数の牛肉・乳製品生産国である米国市場に照準を定めている。2024年コロラド州にオフィスを開設して以降、米国22州の200を超える酪農家がHalterの技術を使い、総延長3万9400キロメートル超の仮想フェンスを設置した。同社は、今後3〜5年で英国、アイルランド、アルゼンチン、ブラジルでの展開を計画している。「農業は、人が居住可能な世界の土地の半分を占めている。世界の土地の生産性を引き上げることは、解決すべき課題の中でも、最も重要でインパクトの大きいものの1つだと考えている」とピゴットは語る。

シリーズDで約154億円を調達し、評価額約1540億円のユニコーン企業へ

投資家もこの見方に同意している。6月、Halterはサンフランシスコ拠点のVC、BONDが主導したシリーズDにおいて、評価額10億ドル(約1540億円)で1億ドル(約154億円)を調達した。これによりHalterは、ニュージーランドでは数少ないユニコーン企業の仲間入りを果たした。

「人工知能(AI)関連の企業が、業界を問わず使える汎用ソフトの市場を狙って乱立し、投資家である私たちは常に周囲を警戒せざるを得ない時代だ」と語るのは、BONDのゼネラルパートナーを務めるサンフランシスコ在住のデグォン・チェだ。同社はCanvaやOpenAI、Revolutにも投資している。「だが、農業や牧畜は、実はイノベーションを待ち望んでいる巨大市場の1つだ」と彼は続ける。

ボストンのコンサルティング会社BCGによれば、世界のアグリテック(農業テクノロジー)市場は、2030年までに620億ドル(約9.5兆円)規模に達する見通しだ。チェは、この市場においてHalterは競合よりも優位に立っていると見ている。「Halterがテスラだとすれば、既存の仮想フェンスの多くは1950年代のディーゼルバギーのようなものだ」と語る彼は、同社のソフトウエアとアプリが「モバイルに精通した次世代の牧場主にとって、自然に使える設計になっている」と評価する。

次ページ > 過酷な酪農の現場で培った「強い回復力と粘り強さ」を武器に、宇宙開発企業を経て起業へ

翻訳=上田裕資

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事