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2025.12.17 13:00

【30UNDER30は今】牛の健康を管理する「スマート首輪」で酪農を変えるユニコーン企業

Dmitry Pichugin/Shutterstock.com

「まさにゲームチェンジャーだ」――約1550頭の牛を管理する酪農家が、人を派遣せずに放牧計画を調整できる点を評価

北島東岸近くのギズボーンに位置する、面積約6650万平方メートルの広大な牧場タンギハウ・ステーションで、約1550頭の牛を飼育するゼネラルマネジャー兼スタッドマスターのディーン・マクハーディは、この製品を「まさにゲームチェンジャーだ」と評価する。

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彼によると、人を現場に派遣することなく群れを即座に移動させ、放牧計画を調整できることは、給餌管理において極めて重要だという。適切に食べ尽くされた牧草地は、次のローテーションに向けて、より質の高い飼料として再生するとも付け加えた。

物理的フェンスが不要なため、地形が険しい牧草地でも均等な放牧が可能

マクハーディは、同牧場で飼育する350頭のアンガス種の種牛群向けに、「Beef Class」プランを選択した。 このプランは、首輪1本あたりの費用が月額8ニュージーランドドル(約712円)のHalterの肉牛に限定されている。また現在までに送信塔を5基設置しており、今後4基を追加する計画だという。「Halterを使えば、冬の寒さやサイクロンに耐えられないかもしれない物理的フェンスを新たに設置することなく、広くて傾斜のきつい牧草地でも均等に放牧できる」とマクハーディは語る。

米国の公的機関と提携して事業を拡大、法規制の整備が進むオーストラリアでも成長を狙う

ピゴットは現在、世界最大の牛肉生産国で、米農務省(USDA)のデータで世界生産の20%を占める米国での事業拡大に注力している。また、米国での展開を進める一方、Halterは、この技術にまだなじみのない農場主との対話にも力を入れてきた。結束の強い農業の世界では、「牧場主や酪農家(畜産農家)が、信頼している誰かからこの製品の話を聞いたり、実際に目にしたりすることが、何よりも効果的だ」とピゴットは言う。これまでにHalterは、米国の顧客が従来型のフェンスにかかるコストを累計2億2000万ドル(約339億円)削減するのに貢献してきたと同社は述べている。

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Halterは今年8月、米内務省土地管理局(BLM)と、その慈善部門であるFoundation for America’s Public Landsとの提携を発表した。この取り組みには、同局が管理する土地でHalterの首輪を使用する牧場主を支援するための270万ドル(約4億2000万円)の資金提供が含まれる。導入第1号の1つとなったのが、カリフォルニア州の公園用地で牛を放牧しているCotoni-Coast Dairiesだ。

Halterは、オーストラリアでも成長を狙っている。オーストラリアでは6州のうち3州で仮想フェンスが認められており、同国最大と2番目の酪農州であるビクトリア州とニューサウスウェールズ州では、この技術に関する法整備が進められている。規制は年内にもまとまる見通しで、南オーストラリア州も同様の動きを検討している。Halterによると、2年前にタスマニア州で事業を開始して以降、同州の乳牛の3分の1がすでに同社の首輪を装着しているという。

多数の競合が参入する中、投資家はデータ分析などの技術力で他社を大きく引き離していると評価

ピゴットは、世界全体での利益や売上高についてはコメントを控えつつ、「当社の最大の焦点は、影響力をどこまで拡大できるかにある」と語る。ニュージーランド企業庁への提出書類によると、国内のサブスクリプション収入は3月期に45%増の3590万ニュージーランドドル(約32億円)に拡大した。一方、売上高は前年から20%減少して7180万ニュージーランドドル(約64億円)となったが、税引き後利益は5380万ニュージーランドドル(約48億円)に達した。Halterは、この減収について、2017年に設立されたサンフランシスコ拠点の親会社Halter USAからの支援が、以前より少なくて済むようになったことを反映したものだと説明している(同年、シカゴに本拠を置くPromus Venturesが米国初の投資家としてシードラウンドに参加し、その後すべての資金調達ラウンドに関与している)。

ニュージーランド企業であるHalterは、他のアグリテック企業との競争にも直面している。仮想フェンス分野の競合には、9月にシリーズBで3500万ドル(約54億円)を調達し、米国と欧州への展開を進めるノルウェーのNofence、ニュージーランドの農機メーカーGallagherが提供する「eShepherd」、そして2022年に製薬大手メルクの動物用医薬品子会社に買収されたVenceがある。牛のモニタリングや健康管理の分野では、タグや追跡装置を提供するメルクのAllflex、オランダ発の耳標型モニタリングシステムCowManager、オーストリアの動物健康データ企業smaXtecなどが競合だ。

それでも、データ分析の規模を含め、Halterが備える機能のすべてを再現できる首輪は、今のところ存在しないと語るのは、同社に複数回投資してきたオーストラリアのベンチャーキャピタル、ブラックバード・ベンチャーズのパートナー、サマンサ・ウォンだ。

「Halterのテクノロジーは今や競合を大きく引き離している。現時点では、この分野の主導権を握っている」とウォンは語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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