ギャラリーオープンと時を同じくして現職に着任した中山は、それまでほとんどアートに触れたことがなかったが、次第に向き合い方が変化。「常に正解を求められる社会のなかで、自由で正解がないアートは、自己肯定感を高め、自分らしく生きるための一つの手段になると感じている」という。和田マネージャーも「このプロジェクトを通じて、アートには単なる装飾にとどまらず、空間を支配できる力があると実感した」と話す。
アート購入とビジネスの好循環
Brilliaブランドのアートの取り組みは、会社全体にも拡がっていき、アートは特定部署の取り組みではなく、東京建物の企業文化として浸透しはじめている。
その現れのひとつとして、25年に「Arthouse Project」を始動。同社がハブとなってアーティストと企業、実業家、研究者などとのコラボレーションを誘発し、街づくりに実装することで、アーティスト支援と都市の価値向上を目指す。その第一弾として、同社が開発したホテル「ヒルトン京都」でアーティスト南依岐の特別展を11月に開催。来場客が作品購入までできる仕組みを整え、ホテルを単なる宿泊施設ではなく、価値を生み出す場所として活用した。
ほかにも、街や物件自体をキャンバスに見立てたプロジェクトを各所で展開している。例えば、工事現場の仮囲いにアートを活用したり、週末に閑散とするオフィス街に写真展を誘致したり。10月には、協賛した東京レガシーハーフマラソンのコース折り返しポイントにアートを纏わせた。それらの活動は、街に新たな人流を生み出し、企業ブランディングにも寄与している。
昨今、企業によるアートの購入や保有は、資産の効率性の観点で株主等から指摘され、特に大企業においては手を出しづらい領域になっている。東京建物の場合、「本業における付加価値創造や利益最大化の手段として」と説明されるものではあるが、5年、10年を経て、Brillia Tower 堂島で暮らす人々へのリサーチから「アートが有する価値」を言語化、発信できれば、それは少なからず、広く企業のアート購入を後押しすることになるだろう。



