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2025.12.16 13:00

起業家の「幼少期のトラウマ」を重視する英VC、ハミングバードの投資戦略:「世界最高の投資家」欧州版

Ksenia Isakova/Shutterstock.com

既存のルールを破る企業に集中投資し、創業者への指導は控える

Hummingbirdは、従来型のVCが重視してきた多くの要素を意図的に避けている。地域特化型や分野特化型としてファンドを位置づけたがる機関投資家にとって、同社の戦略は定義しにくいものだ。「私たちの最高の投資先は、いつも既存のルールを破ってきた企業だった」とイレリは言う。分散投資にもこだわらず、年間の投資件数はごくわずかにとどまることが多い。2015年には、あるファンドの資金の40%を、英国のフードデリバリー企業Deliverooのみに投じた。Deliverooは2021年に上場し、その際の評価額は24億ドル(約3720億円)に達した。

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ファン・デン・ブランデとイレリは、ベンチャーキャピタリストが創業者に対して、製品や戦略の方向性を指南すべきだという考えにも懐疑的だ。「私たちが最大の付加価値を提供できるのは、創業者と率直に向き合い、価値を削がないことだ。市場の95%は、その逆をやっている」とイレリは語る。もっとも、従来型VCの手法を部分的に取り入れる動きもあり、Hummingbirdは最近、創業者が経営幹部を採用するのを支援する専門の人材チームを立ち上げた。

第2号ファンドで出資額の10倍を還元し、業界上位の成績を残す

Hummingbirdには、もう1つ際立った特徴がある。多くのVCと異なり、同社はファンドの運用成績を隠そうとしない。これまでで最も好成績を上げた第2号ファンドは2012年に設立され、投資額に対する分配金の比率である実現倍率(DPI)で10倍を達成した。これは、出資額に対して10倍のリターンを投資家に還元したことを意味する。また、純内部収益率(IRR)は46%に達している。2016年に立ち上げた第3号ファンドは、DPIでは0.7倍にとどまるものの、未実現益は5.3倍あり、純IRRは33%となっている。

こうした実績から、Hummingbirdの初期ファンドは、2012年に投資を開始した米国を主戦場とするVCの中でも上位10%に入る水準にある。ピッチブックのデータによると、同社が分析した2012年組ファンドの平均IRRは18.7%、平均DPIは2.3倍だった。2016年組では、平均IRRが15.7%、平均DPIは0.8倍にとどまっている。サファイア・パートナーズでファンド投資を統括するビーザー・クラークソンは、「Hummingbirdは、セコイアのような一般的に知られた名前ではないかもしれないが、同社が公表している初期ファンドの過去の運用成績は、市場全体と比べても疑いようなく優れている」と語る。「私の経験上、どの地域であれ、初期段階のファンドが複数の世代にわたってDPIで10倍超を達成するのは、極めてまれだ」。

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Hummingbirdは、並外れた工夫力や行動力を持つ創業者の中に、市場が見落としている価値を見いだそうとする。こうした発想は、強烈な逆張り投資で知られるピーター・ティールや、彼が率いるFounder Fundの哲学とも通じる部分がある。ただし、Hummingbirdのパートナーは、ベイエリアの競合よりも早い段階で、より踏み込んだ賭けに出る。彼らはまた、ティール・フェローシップの小型版ともいえる独自の助成制度「Magnificent Grants」も運営しており、25歳未満で野心的な構想を持つ若者に、1万2000ドル(約186万円)からの資金を提供している。

そんな同社は、オフィスの拠点には伝統的な立地を選んでいる。Hummingbirdのロンドンの本社は現在、インデックス、ハイランド・キャピタル、米ファンド運用会社ホースリー・ブリッジ・パートナーズの欧州拠点といった、欧州ベンチャー界の老舗が集まるゴールデン・スクエアを見下ろす場所にある。2人はまた、同じく型破りな発想を持つ企業に投資する3億ドル(約465億円)規模のファンドも運用している。世界の未開拓地域や、競合VCが敬遠してきた分野を見つけるのは以前より難しくなっているが、彼らの中核となる考え方は変わっていない。「私たちが注力しているのは、他の誰よりも先に、卓越した創業者を見つけ出すことだ」とイレリは語った。

forbes.com 原文

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