過去の失敗を教訓にファンドを再始動し、新興市場に注目
ベルギー出身のファン・デン・ブランデが現在の投資戦略にたどり着いた背景には、従来のありきたりな投資スタイルで失敗した経験がある。大学卒業後、彼は米国で銀行業務に就いたのち、2001年に母国ベルギーへ戻り、小規模なベンチャーファンドBig Bang Venturesを立ち上げた。だが、オランダやベルギーのSaaSソフトウエア創業者や、大学発のスピンアウト企業に、米国の正統派VCモデルで投資するやり方では、期待した成果を上げられず、ファンドは尻すぼみに終わった。「ある時点では、LPから本気で解任されそうになった」とファン・デン・ブランデは振り返る。ベルギー北部フランデレン地域の有力政治家を父に持つ彼は現在、ブルージュとロンドンを行き来する生活を送っている。
ファン・デン・ブランデは、この1000万ドル(約15億5000万円)のファンドの立ち上げの当初から資金集めに苦労していた。成果が出なかった後は、主にベネルクス諸国の実業家だった出資者から不満の声が相次いだ。そうした面談の中で彼は、創業者が乗り越えてきた試練や、自力で成功した起業家に共通する心理的特性を強調するようになった。そして2010年、そうした気づきをもとに、型破りな創業者に特化した2500万ドル(約39億円)規模の新ファンドとして、Hummingbirdを再始動した。
ファン・デン・ブランデはその後、当時Hummingbirdで投資案件の発掘を担っていたベンチャーパートナー、パミール・ゲレンベからの助言を受けて、台頭しつつあったトルコのスタートアップに目を向けるようになる。その最初期の投資の1つとして、2010年11月にイスタンブールを拠点とするPeak Gamesの50万ドル(約7800万円)のシードラウンドを主導した。この投資は大きな成功を収め、Peak Gamesは2020年、カジュアルゲーム大手ジンガに18億ドル(約2790億円)で買収された。現在は自身の暗号資産ファンドを運営しているゲレンベは、カリフォルニア拠点の暗号資産取引所Krakenにもファン・デン・ブランデを引き合わせた。
暗号資産取引所Krakenの評価額が約3.1兆円に達し、世界展開を加速
Hummingbirdは2014年3月、Krakenの500万ドル(約7億8000万円)のシリーズAラウンドを主導した。同社は2025年11月、グローバル展開を加速するために8億ドル(約1240億円)を調達し、その際の評価額は200億ドル(約3.1兆円)に達した。
北キプロス出身の投資家イレリが加わり、世界中で投資対象を探し続ける
イレリがHummingbirdに加わったのは2012年のことだ。それ以前に彼は、ロンドンでJPモルガンの新興国向け債券チームに所属していた。イレリは、地中海の分断された島キプロスの北部に位置し、国際的にはトルコのみが承認する自治地域の北キプロスで育った。16歳で島を離れ、マサチューセッツ工科大学(MIT)に進学したが、その頃キャンパスではスタートアップ熱が高まりを見せており、同時代の学生は後にDropbox(ドロップボックス)、Twitch(トゥイッチ)、Cruise(クルーズ)を創業していった。
イレリは当初、米国のVC業界に食い込もうとしたが、最初の挑戦は思うように進まなかった。そんな中で彼の目に留まったのが、トルコのスタートアップ系ブログにひっそりと掲載されていた、ファン・デン・ブランデによる求人情報だった。
2017年にフォーブス「世界を変える30歳未満(Forbes 30 Under 30)」欧州版に選ばれた後、イレリはHummingbirdで手がけた初期の投資案件の1つ、イスタンブール拠点のゲーム開発会社Gram Gamesを、2018年に2億5000万ドル(約388億円)超でジンガに売却する成果を上げた。彼は2021年、Hummingbirdのマネージングパートナーに就任した。
業界に縛られない若手投資家が現地へ赴き、週に50社と面談
現在、Hummingbirdの運用資産は10億ドル(約1550億円)を超える。ロンドンを拠点とする14人のチームは、世界各地を視野に入れながら、自社の基準に合致する創業者を探し続けている。業界や地域に縛られない若手投資家は、正しい投資対象を見極めるために長時間を費やし、多いときには週に50社もの企業と面談する。
「Hummingbirdでの仕事は、自由度が高いのが特徴だった。ラテンアメリカに可能性を感じれば、実際に足を運んでみるという感じだ」と語るのは、Hummingbirdで投資経験を積み、現在はニューヨークのファンドAsylumでパートナーを務めるローラ・ワイスコップだ。「ただし重要なのは投資の件数ではない。基準を決して下げない精神的な強さこそが問われていた」。


