学歴よりも幼少期のトラウマを重視し、逆境に強い創業者を探す
2人の投資先事業の共通点は少ないが、Hummingbirdのパートナーは、その創業者の類似した資質を見抜いている。それは学歴や専門知識ではなく、幼少期のトラウマだ。イレリとファン・デン・ブランデが投資の対象とするのは、過去に直面した厳しい経験を内側からの強烈な原動力に変えてきた型破りな起業家だ。
「世界で最も優れた創業者は、見栄えの良い投資案件として現れるわけではない」とファン・デン・ブランデは言う。「私たちの投資先は、多くのVCが扱いが難しそうだと判断して距離を置く人々だ。だからこそ、この結果を生み出せた」。
Hummingbirdのような投資姿勢を持つVCは他にもある。米大手VCセコイア・キャピタルのダグ・レオーネは、イタリアから移民として渡米した後、学校でいじめられた経験が投資家としての強みにつながったとたびたび語っており、そこから「尖った」創業者に注目するようになったという。ほかのファンドもまた、起業家の打たれ強さを重視している。ただし、Hummingbirdはそこから1歩踏み込んでいる。
「多くのファンドも同じことを口にするが、実際にはパランティアやマッキンゼー出身者に投資して終わることがほとんどだ。Hummingbirdは本当に、幼少期にトラウマを経験した人を探している」と、このVCと共同投資した経験を持つ匿名のエンジェル投資家は語る。
アタイは自身の過去について多くを語ることは避けたが、トルコの黒海沿岸にある小さな都市で中間層の家庭に育ったことや、熾烈な競争の末に大学入試で全国1位となった経験には触れた。「当時は、欲しい本すら買えない状況だったが、貧困だとは感じていなかった」とアタイはフォーブスに語った。
創業者アタイがコロナ禍の逆境で動き、医師との面談機会を掴む
Hummingbirdがアタイの強靭な精神力を実感したのは、その後1年も経たないうちに新型コロナのパンデミックが米国を直撃したときだった。BillionToOneの顧客である医師は対応に追われ、従来の営業チャネルも機能しなくなった。だが、典型的な研究者肌の創業者とは異なり、アタイは現場に出た。彼は駐車場でミーティングを重ね、医療用マスクを無償で配ることで、多忙を極める医師や医療機関に食い込む機会をつかんでいった。
「多くの人は、彼を物腰の柔らかい博士号取得者だと見ていて、その内側にある勝負師の顔を見抜けなかった」とイレリは語る。どんな逆境に直面しても計画をやり切るアタイの実行力に、イレリは当初から賭けていたという。


