ローシャン・クマール・シェティ氏、テック・マヒンドラ BFSI部門長兼公共部門アメリカ担当。
私の経験では、金融業界はこの10年間、破壊的イノベーションと急速な拡大に突き動かされた、領域獲得のためのゴールドラッシュに費やしてきた。しかし、その状況は変わりつつある。現在、リーダーたちとの対話は、「迅速に行動して物事を壊す」ことではなく、「長続きするものを構築する」ことに関するものになっている。これは単なる感覚ではなく、市場の現実だ。
世界経済フォーラムの最近の報告書によると、フィンテック業界は「急速な拡大から持続可能な成長へ」と移行しており、顧客獲得率はより安定したレベルに落ち着いている。平均顧客成長率も緩和され、パンデミック時の55%という高水準から、より安定した37%に減少している。
私たちは、ビジネスモデルの根本的な「再創造」を必要とする、より慎重な新時代に入りつつある。成功するためには、長期的に真に強靭で、インテリジェントかつ信頼できる金融システムを構築しなければならない。
二重の強靭性という新たな使命
強靭性の概念は人気のある話題になっているが、私は将来に向けて真に構築するためには、より微妙な二面的アプローチ、つまり二重の強靭性を受け入れる必要があると考えている。これは、絶え間ない変化の世界で繁栄できるビジネスを設計することだ。
まず、テクノロジーの強靭性がある。これは、レガシーシステムの堅牢な安定性と最新テクノロジーの俊敏性を巧みにバランスさせることを意味する。例えば、大手銀行は現在、APIを使用して機敏なフィンテックサービスをメインフレームコアに直接接続し、基盤となるインフラのセキュリティを犠牲にすることなく、革新的なデジタル製品を提供できるようにしている。
第二に、そしてますます重要になっているのが、ビジネスの強靭性だ。これには、一枚岩のグローバル戦略からハイパーローカライズされたモデルへの移行が必要となる。例えば、アジアで主流のQRコードベースの決済システムは、西洋のカード中心のNFC駆動システムとは異なる消費者行動に合わせて構築されている。この協調的アプローチはすでに新たな標準になりつつあり、84%ものフィンテック企業が、より統合された適応性のあるエコシステムを構築するために既存の金融機関と提携している。
人間とAIの共生：自動化を超えて
私たちの労働力の未来は、おそらくこの再創造の中で最も誤解されている部分だ。議論すべきはAIによる人間の代替ではなく、人間とAIの強力な新たな共生関係についてだ。エージェンティックAIのような新興技術が複雑な多段階プロセスを管理し始めるにつれ、人間の才能はより重要になり、決して軽視されるものではない。これは資産運用の実践で見られ、AIは数秒で数千のリスク変数についてポートフォリオを分析できるが、クライアントの人生の目標やリスク許容度を理解するには人間のアドバイザーが不可欠だ。
この力学は、戦略的監視、倫理的判断、そして重要な決断に必要な感情指数といった、私たち人間の最もユニークなスキルを要求する役割を生み出す。これはデータによっても裏付けられており、世界経済フォーラムによると、AI導入後に労働力の規模に変化がなかったと報告した金融企業は50%で、人員を削減した企業よりも増加させた企業の方が多かった。「ヒューマン・イン・ザ・ループ」は単なるチェックポイントから、最も価値ある戦略的資産へと進化している。
新たな基盤通貨としてのデジタル信頼
これらの変化の中心にあるのは、IT上の懸念からC層の執着へと昇格させるべき概念だ：デジタル信頼である。相互接続されたパートナーシップとアルゴリズムによる意思決定に基づくエコシステムにおいて、信頼はもはやブランド属性だけではなく、他のすべてを可能にする基盤通貨だ。AIで生成されたディープフェイクの増加と、高度なサイバー攻撃の絶え間ない脅威により、これはかつてないほど緊急性を帯びている。
業界全体のリーダーたちもこの懸念を共有している。金融企業の約85%がデータ侵害を中程度から非常に高いリスクと見なし、76%がAIに関する規制の不確実性を大きな障壁と見ている。データを保護し、テクノロジーを倫理的に管理する能力に対する顧客や規制当局の揺るぎない信頼がなければ、最も優れた戦略も失敗するだろう。
将来の展望：リーダーシップへの使命
今後の道筋は明確だ。私たちリーダーには、単なる破壊者から、より強靭なエコシステムの思慮深い設計者へと進化することが求められている。今後数年は、二重の強靭性に根ざし、真の人間とAIのコラボレーションによって推進され、揺るぎないデジタル信頼の基盤に基づいたビジネスを構築する能力によって定義されるだろう。これこそが真の再創造の仕事であり、私たちの業界におけるリーダーシップの決定的な使命なのだ。
