金(ゴールド)価格は2025年、最高値を更新したが、恐怖や投機による過去の急騰とは異なり、今回の上昇は大きな構造的変化によって支えられている。中央銀行による買い入れや実質利回りの低下、世界的なマクロ経済の不安定化などの要因により、世界最古の価値保存手段である金の重要性は再び増しつつあり、今後数年間で安全性や流動性、資産保全に対する投資家の見方を変える可能性もある。
金価格の上昇を陰で支える中央銀行
金価格上昇の主因は小売需要や過剰な取引ではなく、中央銀行だ。アジア、中東、欧州の一部地域の中央銀行は、3年連続で毎年1000トン以上の金を買い増している。これは戦術的な購入ではなく、戦略的な再配置を表している。
中央銀行の論理は明白だ。集中したドル建て資産からの分散を図り、地政学的なリスクから自国経済を守り、インフレの状況が不透明で通貨変動性が高まりつつある時代に長期的な準備金を安定させるためだ。政府が金を一種の保険と見なすと、投資家もそれに追随する傾向がある。
実質利回りの低下と軟調なドル
金の価格決定に極めて重要な実質金利は緩やかな水準に戻り、利回りのない資産を保有することによる機会費用が減少した。同時に、ドル安傾向により、政府系ファンドから発展途上国の世帯に至るまで、世界中の買い手が金地金を入手しやすくなった。
貿易摩擦から地域紛争に至る地政学的な不確実性により、従来のリスク資産が過剰に拡大しているように見える際のヘッジ手段として金の役割が強化されつつある。実質利回りの低下、通貨安、そして時折見られる世界的な変動が相まって、継続的な強気の状況にとって好ましいシナリオを生み出している。
金は周辺的な存在から中核的な存在へ
2025年の大きな変化は、金がヘッジ手段から中核投資へと移行したことだ。上場投資信託(ETF)への資金流入が増加し、民間銀行は推奨配分を引き上げている。また、機関投資家のモデルでは、短期的な戦術的戦略に依存する代わりに、長期的なリスクの枠組みに金を組み入れるようになった。
もはや「恐怖時に買い、平穏時に売る」戦略ではない。特に、債務過多、高インフレ環境下での債券の信頼性を投資家が再考する中で、多様化したポートフォリオの構造的要素へと進化しつつある。
次に何が起こるのか
小幅な利下げ、ドル相場の安定または弱含み、継続的な準備金の積み増しといった現在のマクロ環境が続く場合、金価格は2025~26年にかけて上昇を続ける可能性がある。中央銀行やETFからの需要が過去の投機的なサイクルより安定しているため、緩やかな軌道であっても上昇の余地は残されている。
とはいえ、リスクも存在する。実質利回りの急騰や世界経済の著しい回復が調整局面の引き金となる可能性がある。ドル高も短期的な上昇を制限する可能性がある。ただし、その基盤を支えるものは、過去数十年と比較して著しく強固だ。
結論
2025年の金価格の上昇は単なる価格上昇ではなく、ポジション調整が関係している。中央銀行が準備金を再構築し、投資家がポートフォリオを再調整し、マクロ経済の不確実性が持続する中、金は最終手段としてのヘッジから長期的な戦略的資産へと移行しつつある。
通貨が不安定で債務水準が高く、地政学的な見通しが不透明な状況下で、金の重要性は衰えるどころか、むしろ高まっている。これは今後数年間で最も重要な投資の物語となるかもしれない。



