サステナビリティが重要な経営課題となって久しいが、果たして日本の企業が本質的な取り組みをできているのか、疑問を呈する声がある。
本連載では、幅広い産業でサステナビリティに関する戦略立案や情報開示、格付け支援を行う私、PwC Japan有限責任監査法人の田原英俊(たはらひでとし)が、その要因や対策、そして真のサステナブル企業を見極める方法について記していく。初回は、日本企業のサステナビリティの取り組みを阻む「意外なハードル」の正体を紹介したい。
広がるESG投資、進まぬSDGs
近年、日本でサステナビリティ経営が盛り上がりを見せる背景のひとつには、間違いなくESG投資の急伸がある。最大のきっかけは、2015年9月、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、当時の安倍首相が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)でESG投資を拡大させると発表したこと。以降、投資家はサステナビリティへの取り組みを企業により強く求めるようになった。
中でも、全ての企業にとっての重要課題である気候変動対応については、同年12月に採択されたパリ協定に基づき、2050年までの地球の平均気温上昇を1.5度に抑えるべく、世界各国で温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた対応が取られている。日本でも同年までに排出量実質ゼロを目指し、22年には経産省主導で産官学による推進の枠組み、GXリーグを設立。大手企業を中心に、国内排出量の50%以上を占める600社近くが「サステナビリティ経営」を標榜し、取り組んでいる。
しかし、その進捗は目標には程遠い。世界のGHG排出量は1990年に約380億t-CO2、2000年に約420億t-CO2、2019年には約590億t-CO2と、増加の一途を辿っている(※1)。日本のGHG排出量は1990年の12億7200万t-CO2から2020年には11億2500万t-CO2となり、減ってはいるものの、微減にとどまっている(※2)。
また、一次エネルギー(自然から直接採取できるエネルギー)の消費量に占める化石エネルギー、つまりCO2排出の原因となる石油や石炭、天然ガスなどの割合は、世界で1990年に81.8%、2023年に80.7%とほぼ変わらず、エネルギーの脱炭素化も過去30年でおおよそ進展が無い(※3)。
気候変動以外の目標についても、2023年に国連から発表された進捗レポート(※4)では、SDGsの169のターゲット(2030年までに達成すべき169の目標)のうち、50%以上の取り組みが大幅に遅れ、30%は取り組みが停滞しているか、むしろ悪化していることが示されている。
なぜ多くの企業が取り組んでいるにもかかわらず、世界ではサステナブルな社会実現の動きは遅々として進まないのか。そこにはいくつかの原因がある。



