「情報開示の法規制化」が生んだ歪み
これまで企業のサステナビリティの取り組みは、企業の任意で情報が開示されてきた。ESG投資の拡大により、多くの投資家が投資判断に利用しているが、任意の開示情報であることから信頼性の欠如や、各社で指標が揃わず比較可能性の乏しさが指摘されてきた。それらの問題解決を目的に、2020年前後からは世界でサステナビリティ情報開示の標準化および法規制化が進んでおり、日本でも今後、数年内に予定されている。
そうした中、日本で多くの企業を支援している私の実感では、企業が今、サステナビリティの取り組みとして最も注力しているのは、来るべき法規制化への対応だ。サステナビリティレポートや統合報告書などを通した情報開示を、法規制に沿った形に改善することに、多くのリソースを投下している現状がある。
そして、本来なら例えば製造業でGHG排出量を将来的にゼロにするためには、まずはビジネス戦略の大幅な転換を図らねばならないはずだが、実際にはほとんどの企業の対応は異なる。もちろんビジネスの変革はたやすいものではないが、我々が直面しているサステナビリティの課題はそれを引き起こせるほど深刻であり、中長期的な視点でみれば、大きなリスクもしくは機会である。しかし現在、日本のビジネスリーダー層は、そのようには認識していない可能性がある。
Z世代にあって、日本のリーダー層にはないもの
一般的にサステナビリティに関するリテラシーは、地域や年代、教育を受けてきた期間の長さによって違いが見られることが多い。
地域性でいうと、欧州はアジアなど他の地域と比べ、環境やサステナビリティに対する認識レベルが高いとされている。また、世代については、ミレニアル世代やZ世代は、幼少期など早い時期から環境やサステナビリティに関する教育を受けてきているため、それらに関する知識が深く、行動も積極的であると言われている。では現在、日本の企業を牽引するビジネスリーダー層は、サステナビリティについてどの程度リテラシーをもっているのだろうか。
私が所属するPwC Japan監査法人が実施した日本の上場企業で働く方々2529名を対象にした意識調査(※5)でも、サステナビリティについての認知度(サステナビリティを人に説明できるだけ知っている割合)は2018年には31%、2022年に42%と、年々高まっているものの、サステナビリティとは具体的に何か? という問いに対しては、社会貢献や工場での環境負荷削減と答える人の割合もまだ高い。さらに、サステナビリティの取り組みを中長期的なビジネス戦略の実行だと認識している割合は、まだ3割弱である。
その一端は、サステナビリティ情報の開示方法にも現れている。例えば、日本企業の統合報告書やサステナビリティレポートでは、重要な課題(マテリアリティ)は示されているが、それらと開示されている膨大なデータの関係性はあまり示されていない。サステナビリティ先進国の企業のように、それぞれの課題がなぜ重要なのかやステークホルダーにどのような影響を及ぼすのか、事業成長の機会などについて、定性面、定量面から上手く説明できている日本企業は少ない。


