3. ジギタリス――心臓病学を変えた、美しくも危険な花
ジギタリス(学名:Digitalis purpurea)は、広く栽培される有名な植物だ。草丈が高く、優雅で、紫色の筒状の花を咲かせる。だが、ジギタリスは美麗であると同時に、恐るべき毒をもつ。
葉に含まれるジギタリス配糖体(数種あり、最も有名なのはジゴキシン)は、心臓の収縮作用を強化し、不整脈を抑える効果をもつ。
ジギタリスが医学に登場したのは18世紀のことだ。イングランドの医師ウィリアム・ウィザリングは、ジギタリスを含む植物性生薬が、当時「ドロップシー(dropsy)」と呼ばれた症状、今でいううっ血性心不全を劇的に改善することを記録した。
ウィザリングによる1785年の著書『An Account of the Foxglove(ジギタリスに関する記録)』は、構造化された臨床報告の最初期の1例だ。ウィザリングは試行錯誤で投与量を調整し、現代薬理学の基礎を築いた。一方、ジギタリスは深刻な被害ももたらした。
薬効のある投与量が、危険と隣り合わせだった
命を救うジギタリス投与量と、致死量の差はあまりにわずかだ。初期の医師たちによる薬の計量法は統一されていなかったため、患者への過剰投与は日常茶飯事だった。
症状の誤解
ジギタリス中毒は、吐き気、視力低下、意識混濁、重度の不整脈といった症状を示す。これらはしばしば、心疾患の悪化と誤診された。そのため医師は、中毒症状が出ている患者へのジギタリスの投与を中止するどころか、投与量を増やすことが珍しくなかった。
野放しの民間療法
健康状態について医師に相談することがまだ一般的ではなかったころ、人々は家庭でジギタリスを煎じたお茶を飲んでいた。ジギタリスは少量でも猛毒であるため、こうした自己流の服用によって死亡するケースが頻発した。今日でも、誤ってジギタリス茶を飲んでしまう事例は珍しくない。こうした事故は、ヒレハリソウ(コンフリー)という、無毒で葉に鎮痛作用のある植物と間違われて起こる。
このような危険はあるものの、ジギタリスは、一部の心疾患の治療薬として、今も極めて重要だ。
キナノキ、ヤナギ、ジギタリスは、抗マラリア薬、鎮痛薬、強心薬をもたらし、いずれも現代医学の偉大な成果といえる。これらの植物は、医学における厳しい教訓を私たちに教えつつ、世界の医療を変え、数百万人の命を救ってきたのだ。


