サイエンス

2025.12.15 18:00

犠牲と共に、現代医学に不可欠な薬をもたらした「有毒植物3種」

キニーネの製造(deden iman / Shutterstock.com)

2. ヤナギ――樹皮成分が、世界で最も使われる薬に

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医学を変えた植物として次に取り上げる種は、植物そのものも、植物に由来する薬品の方も、おそらく皆さんが日常的に目にしているものだろう。セイヨウシロヤナギ(学名:Salix alba)などのヤナギ属の樹木は、しなやかな枝とやわらかな葉をもち、サリシンという化学物質を含むことで知られる。1820年代、この活性成分を単離し、化学変化させたサリチル酸が、強力な鎮痛剤として普及した(ただし、胃炎を引き起こす副作用もあった)。

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ただしヤナギの樹皮は、それよりはるか以前から、世界各地で解熱鎮痛剤として広く利用されてきた。古代エジプトのほか、ヒポクラテスなどの古代ギリシャ医学、中国伝統医療、多くのネイティブアメリカン文化に、こうした形でヤナギを利用してきた記録がある。

1897年、サリチル酸の重要性をさらに高める出来事が起こった。独バイエル社の若き化学者フェリックス・ホフマンが、アセチルサリチル酸の合成に成功したのだ。アセチルサリチル酸は、サリチル酸と比べて副作用が穏やかで、大量生産が可能だった。アセチルサリチル酸は、「アスピリン」の商品名で販売されるようになり、ほどなく全世界で最も広く利用される医薬品となった。

医学誌『The BMJ』に掲載された論文が指摘するように、アスピリンは鎮痛剤に革命を起こし、のちには血栓形成を阻害する効果から、心臓血管医学においても中心的役割を果たすようになった。すなわち、頭痛から心臓発作まで、多種多様な不調を治すのに不可欠な存在となったのだ。

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しかし、ヤナギの樹皮から生まれたアスピリンが家庭の必需品になるまでのあいだに、いくつもの深刻な被害がもたらされた。

その作用機序は、数十年にわたって謎だった

アスピリンは、広く販売され消費されたが、医師たちは、その具体的な作用機序をほとんど把握していなかった。アスピリンの作用機序(プロスタグランジンの生産阻害)が解明されたのは1971年のことだ。製薬会社は数十年にわたり、アスピリンが完全に無害であるかのような誤ったマーケティングを展開し、これにより過剰処方が蔓延した。

消化管出血

長期間のアスピリン服用、あるいは高用量での服用は、胃潰瘍や消化管出血を引き起こすことが知られている。しかしこうしたリスクは、普及が始まった頃にはほとんど理解されていなかった。避けることができたはずの合併症が、多くの患者たちで生じた。

ライ症候群

20世紀半ばには、ウイルス性感染症の小児患者にアスピリンを投与するのは一般的なことだった。そして1980年代になってようやく、アスピリンとライ症候群の発症の関係が明確に裏づけられた。ライ症候群は、まれではあるが極めて致死率の高い疾患だ。痛ましいことに、小児患者へのアスピリン投与に関する警告が世界的に発せられるまでに、多くの子どもたちが合併症を起こして命を落とした。

暗い歴史を秘めつつも、アスピリンがこれまで開発された中で最も重要であり、最も信頼される医薬品の1つであることに変わりはない。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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