サイエンス

2025.12.15 18:00

犠牲と共に、現代医学に不可欠な薬をもたらした「有毒植物3種」

キニーネの製造(deden iman / Shutterstock.com)

1. キナノキ――マラリア薬キニーネをもたらした有毒の樹木

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何世紀もの間、マラリアは人類にとって最も危険な病だった。低所得国においては、マラリアは現在も主要な死因の1つだ。

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18世紀と19世紀の間、周期的にマラリアが流行し、コミュニティに蔓延する地域は、外国人には居住不可能とみなされた。しかし、南米アンデス山脈の高地に自生するキナノキが、ブレークスルーをもたらした。

先住民のケチュア族は、はるか昔から、キナノキの樹皮を解熱剤として利用してきた。イエズス会の宣教師たちは、17世紀にこの風習を知り、キナノキの樹皮をヨーロッパに持ち帰った。ほどなくこの薬は、「イエズス会士の樹皮」と呼ばれるようになった。

医学誌『Malaria Journal』に掲載された論文によれば、キニーネの単離に成功したのは1820年のこと。フランスの化学者ピエール=ジョセフ・ペルティエと、ジョセフ・ビヤンネメ・カヴェントゥによる業績だ。

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ペルティエとカヴェントゥは、民間療法を標準的な医薬品に変えた。当時、キニーネはマラリアの死亡率を下げただけでなく、熱帯地域におけるグローバル貿易、植民地化、軍事的領土拡大を可能にした――医学だけでなく、地政学にも激変をもたらしたのだ。

キニーネの治療効果は確かだったが、同時にいくつかの深刻なリスクを伴った。

毒性と過剰摂取

キニーネの安全な服用量は、中毒を起こす量と紙一重だ。普及当初には、医師の過剰処方によるキニーネ中毒が頻発した。キニーネ中毒の症状には、視力の喪失、耳鳴り、せん妄などがあり、時には心不全に至る。

処方の乱発

マラリアの解明が進むまで、キニーネはあらゆる発熱症状に処方された。結果として、多くの患者の症状は悪化し、死亡することさえあった。実際には感染していない病気の治療薬を与えられたのだから、それは無理もない。

植民地の搾取

ヨーロッパ列強は、キナノキの種子を密かに持ち出し、アジアとアフリカにプランテーションを建設した。これにより先住民コミュニティは、数世紀にわたって利用してきた植物の管理権を奪われた。

現在でもキニーネは、WHO(世界保健機関)が定める必須医薬品モデル・リストに掲載されており、臨床医学における変わらぬ重要性を物語っている。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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