メルセデスAMGが「エレクトリックV8」という矛盾した概念で電動化に挑む。1360馬力のEVと究極のV8を同時開発する理由を、12月に本社取締役に就任したミヒャエル・シーベが語った。
「これを見てください」
インタビューの途中、ミヒャエル・シーベが携帯電話を取り出した。画面には、サーキットで歓声を上げるエンジニアたちの姿。CONCEPT AMG GT XXが24時間での最長走行距離をはじめ数々の世界記録を更新した瞬間の動画だ。メルセデスAMGのCEOは、そのときの高揚感のまま、エモーショナルな時間の喜びを語ったのだった。
2025年11月のジャパンモビリティショーでアジア初公開となったGT XX。完全電動でありながら、彼らはこれを「エレクトリックV8」と呼ぶ。V8とは本来、8気筒エンジンを指す。電気自動車にエンジンはない。なぜ矛盾した名前を付けたのか。
「V8とは何でしょう? 馬力? トルク? いずれも違います。それは『体験』なんです。アクセルを踏んだ瞬間の高揚こそがV8の本質。私たちがつくりたいのは、その体験を電動で実現することです」
1360馬力という出力について、シーベは「トゥーマッチ」と笑う。しかし、それがAMGの存在意義だという。
開発で最も時間をかけたのは、実は加速の「質」だったという。
「多くのEVではペダルを踏むと『ぐんっ』と加速し、頭はのけぞる。でもそれはドライバーが望む挙動ではない。私たちが表現したいのは、速く、視線をぶらさない安定した加速と高いパフォーマンスです」
この哲学を実証するのが、冒頭で触れたナルドサーキットでの挑戦だった。
「記録更新という非常に大胆なゴールを設けました。バッテリーテクノロジーの人間も来ました。記録更新のためにはサーキットのチャージャーが最適ではなかったので、自前のチャージャーをわざわざもってきて設置したんです」
通常は別々の部署で働くエンジニアたちが、このときは部門の壁を越えて結集した。EVでも内燃機関と同じように、加速・減速のサイクルを何度繰り返してもパフォーマンスが落ちないことを証明した。
その一方で、10月販売開始のGT 63 PROは、V8ツインターボエンジンの究極形だ。なぜ両極端を同時に追求するのか。
「V8の音が好きという方に、EVでも同じような楽しみを提供する。それを統合していくのがGT XXのコンセプトだからです」
メルセデス・ベンツと、ほかのジャーマン3と呼ばれるドイツの自動車メーカーやイタリアの高級スポーツカーメーカーを隔てているものは何か、と問うと答えは明快。
「現状に満足しない体質です」
象徴的な例として、Sクラスのシートを例に続けた。
「前モデルで感動したのに、次世代はもっと良い。常に現状維持ではなく、もっと自分自身を変えていくメンタルは我々のDNAに刻まれています」
重要なのは、前の世代より「良いもの」ではなく「違うもの」をつくることだという。AMG、マイバッハ、Gクラスを擁するトップエンド戦略についても、シーベの整理は明快だ。
「AMGは最もスポーティ、マイバッハは最もラグジュアリー、Gクラスは最も冒険に特化。それぞれの顧客層があります。専門性をキープしながらも新たな世代で新しい姿を見せ続けていくことが重要です」



