加速度的に進化するAIや地政学的緊張など、絶え間ない変化の波に晒され、予測困難な時代。ビジネスリーダーには変化の本質を捉え、経営課題を解決するクリエイティビティが求められている。中でも時にAIにはできない問いを立て、共感や信頼を生み、組織を動かす「コンテンツの力」は、今や事業に欠かせない武器の一つだ。
そこで、クリエイターから広報・宣伝、ヘッドハンターまで、業界の注目人物に話を聞き、「コンテンツの力」をどうビジネスに生かしていくのか、ヒントを探っていく。
本稿では、読売テレビ(日本テレビ系列)で『ダウンタウンDX』をはじめ数々の人気番組を手掛けたテレビプロデューサーで、25年春に独立後は企業のコンテンツや事業、人材の開発にも携わる西田二郎氏をゲストに迎え、ヒットを生み出す発想法に迫った。
スーパーの入り口で見つめていたもの
約32年間続いた『ダウンタウンDX』を始め、島田紳助氏と松本人志氏のトーク番組『松紳』、キングコングの西野亮廣氏が司会を務めた深夜番組『ガリゲル』など、いくつもの人気バラエティ番組を世に送り出してきた西田氏。中でも『ダウンタウンDX』において、MCダウンタウンの巧みなトークを軸に、タレントや元スポーツ選手など、多彩なゲストの素顔を引き出し、視聴者との距離を近づけるバラエティ番組の新しい形を生み出した功績は、業界で高い評価を得ている。
そんな西田氏に企画を立てる際に重視していることを聞くと、まずは「コンフォートゾーン(安心領域)を抜け出すこと」という答えが返ってきた。バラエティのレギュラー番組では、出演者もスタッフもある程度の数字さえ稼げていれば、既存の発想法や制作方法などをベースに、安定感を重視した番組作りを行う流れがある。しかし西田氏は、番組の鮮度と人気を保つために、あえてそれらを捨てて制作に臨んでいたという。
「マーケティングはもう皆さん(他局)もされているわけですよね。そこに頼って発想していくことは、皆さんで同じはしごを立てて、横並びで一段ずつ登っていくことになる。だから飛躍はできないし、その延長線上に大笑いしてもらえるようなヒット企画は存在しない。既存のやり方を延々と続けているだけで当たるんやったら、皆さん大ヒットしていないとあかんわけです。
だけど、これまで過去に当たった番組の傾向やマーケターが集めてきた視聴者層に関する情報をガチガチに生かして、ヒットしたバラエティ番組を僕は見たことがありません。ヒットを生む発想をするためには、飛躍する覚悟が必要やと思います。そのために、『ゼロ次情報』を取りに行くことを重視していました」(西田)
ここでいう「ゼロ次情報」とは、西田氏自身が直接、ターゲットの視聴者層がいると想定される場所に足を運び、見て感じて、脳内に映像として貯め込んでいる情報のこと。他者の解釈や分析を経ていない、西田氏自身の直接的な体験や感性に基づく生の情報だ。
例えば「ダウンタウンDX」の企画づくりのために、西田氏は東京都の板橋区にあるスーパーマーケットを頻繁に訪れては、店の入り口の前に数時間佇み、利用客を観察して過ごしていたという。
「人の姿を眺めたりムードを感じたり、その人たちがしゃべってる言葉を聞いたりしながら、感覚の泉の中に取り入れていくんです。そうやって現場で自分の身体を通った情報でしか、生きた発想にはつながらないと思います。あの人、今夜の食事は何かな? きょうはネギを買っている女性が多いな。安いからかな? とか、ずっと想像するんです」(西田)



