それらの答えの多くは、現場で観察対象の人に直接声をかけて質問すればわかる可能性が高いが、西田氏は決して話しかけることはしなかったという。それはなぜか。
「僕は、類推する力が全てやと思ってるんですよ。スーパーの前で、人々の動きや表情から今の気持ちや暮らしといったバックグランドを、そして少し先の未来まで類推する。バラエティは収録から放送まで1か月くらいはタイムラグがあるので、今だけを見て企画を立ててはいけないし、長く笑ってもらえるヒットを生み出すためには、世の中や人々がこういう風になっていくんやろうなとか、先を読む力が必要なんです」(西田)

あえて整理せず「脳を裏切る」
さらに、西田氏はそうして得たゼロ次情報をアウトプットせず、あえて「未処理情報」として脳内に溜め込んでおくのだという。その理由について、脳の仕組みの裏をかく有効性をあげた。
「未処理の情報を脳内にどれだけ置いておけるかは、発想のすごく重要なところ。僕は専門家ではないけれど、やっぱり脳は、見たり聞いたりした情報を整理してアウトプットしたがる。だから曖昧なものって気色が悪いから、脳内にあんまりとどめておきたくないんですよね。
でも、得たゼロ次情報を誰かに話したり、文章化してアウトプットすると、その時点で編集済みのものとして型にハマってしまう。そして、編集で使わなかった部分は、捨てられてしまう。でも、そこにも価値がある。未処理情報として置いておくことで、後で発想の材料にできるんです。スーパーにいたあのネギを持っていた女性がどうやったら笑ってくれるのかな?と考えて、そこで脳に溜め込んでおいた未処理情報をかき集めて、カードのように組み合わせて使い、発想するんです」(西田)
西田氏は未処理情報同士を、時には発展性を持たせたり切り口を変えたりするために、スポーツやカルチャーなどといった既存の手札とも掛け合わせながら、形にしたいイメージを描き、企画を膨らませていく。すると今度はそれを実現するために、経験や限られた制作リソースを生かし、プロフェッショナルとして極めてドライに企画書に落とし込んでいくという。どこまでチャレンジできるのか、革新性と実現性のせめぎ合いを経て生まれた企画には、次のようなものがある。
一つは、「ダウンタウンDX」の人気コーナー「スターの私服」で、出演者の芸能人が普段着ている私服を紹介し、そのブランドや価格、コーディネートのポイントなどを語るというもの。1990年代後半にスペシャル版で放送された際は、関西地区で30%を超える異例の高視聴率を獲得した。
今でこそ、スターの私服をテーマにした企画は一般的になったが、同コーナーの企画当時は「スターの私服に誰が興味を持つのか?」と懐疑的な意見が多かった。企画のきっかけは、西田氏が89年に読売テレビ入社後にしばらく担当していた『2時のワイドショー』(全国ネット)という情報番組の現場で、先輩ディレクターから聞いたひと言だったという。同番組には、パーティーに出席していた女優に会場でインタビューし、そのファッションを視聴者に見せるために、一回転してもらうというコーナーがあった。
「先輩が『背中が開いたドレスを着てる女優さんが回っている映像はウケる。何回でも繰り返し流したらいい。クルクルパンや!』と言いました。『クルクルパン』って、なんか面白いなと思いながら、他の人には伝えず、その言葉を頭の中で未処理情報として置いておきました。そして、後で『ダウンタウンDX』の制作を担当することになり、企画を考える時に、スーパーマーケットの前で見た女性と結びついたんです」(西田)


