経営・戦略

2025.12.22 13:30

明治HD 松田克也:「栄養報国」とROEの新指標で挑む日本人の消費行動を変えるブランド

松田克也|明治ホールディングス 代表取締役社長

松田克也|明治ホールディングス 代表取締役社長

2025年10月24日発売のForbes JAPAN12月号第一特集は、「新いい会社ランキング2025」特集。上場企業を対象にした毎年恒例の大企業特集では、今年は「ステークホルダー資本主義ランキング」と、新たに「ESGフィット度ランキング」の2つを掲載している。ステークホルダー資本主義ランキングは、「地球(自然資本)」「従業員」「サプライヤー・地域」「株主」「顧客・消費者」の5つのカテゴリーで解析。ESGフィット度ランキングでは、サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業を導き出した。同号では2つのランキング、IPOランキング上位の11企業の経営者インタビューを一挙掲載している。

advertisement

カカオの廃棄物活用、酪農支援で築く新たな「明治ブランド」。ESGを稼ぐ力につなげる社長・松田克也の戦略とは。


2018年、明治乳業と明治製菓が合併した明治の社長に就任した松田克也は頭を悩ませていた。同社のコア製品、チョコレートと乳製品の主原料であるカカオと牛乳は、地球環境と生産者の生活に直結する課題を抱えていたからだ。

「食と健康」のプロフェッショナルとして、常に一歩先を行く価値を創り続ける── 。
 
このグループ理念を掲げる明治ホールディングスは、1916年の創業以来、日本の食生活の豊かさと健康の向上に貢献し続けてきた。同社の事業領域は、牛乳・乳製品、菓子、加工食品から医薬品まで多岐にわたるが、その根底にあるのは、創業者・相馬半治の思いを体現した「栄養報国(栄養を通じて社会に貢献する)」という揺るぎない精神だ。 

advertisement

「栄養報国」を現代において実践するためには、製品の品質やおいしさ、安全性はもちろん、その原料が持続可能なかたちで調達されていることが不可欠だ。冒頭の松田の悩みは、この課題に直結したものだった。 

「チョコレートの原料となるカカオ豆は、カカオポッドと呼ばれる果実全体の重量に対し、わずか10%しか取れません。殻やハスク(種皮)は廃棄されてしまうのです。これでは、サステナブルな産業とは言えません。私は明治乳業の出身でチョコレートは素人だったんですが、捨ててしまうハスクの部分を活用できないものかと考えていました」

そこで生まれたアイデアが、「ひらけ、カカオ。」という取り組みだ。

漆器メーカーと協業し、ハスク100%のコースターやおわんなどを製品化。スタートアップと協業し、生分解性プラスチックとハスクを混ぜると「カカオバイオプラスチック」に生まれ変わった。このプラスチックは同社製品のチョコレートトレーの原料として使われている。さらに、ハスクから保湿成分のセラミドが抽出できることがわかり、化粧品メーカーと商品開発を進めている。「カカオに携わるサプライチェーン全体が笑顔に、幸せになるようにしなきゃいけない。カカオから新たな価値を生み出すことができれば、新たな産業や雇用が生まれ、アフリカや中南米などのカカオの生産者にも還元できます」

松田は酪農家への支援にも力を入れる。2018年から始まった「メイジ・デイリー・アドバイザリー(MDA)」は、高齢化が進み、働き手や後継者不足に悩む酪農家のもとに明治グループの専門チームを派遣し、経営指導や人材育成、事業承継を 支援する事業だ。これまで56軒の酪農家がMDAに参加している。「このまま酪農家が減ってしまえば、国産の牛乳は飲めなくなります。そうなる前に生乳の価値を向上させ、アニマルウェルフェアにも配慮しながらちゃんと稼げる職業として維持していく。それがリーディングカンパニーの責任だと思っています」

次ページ > 「赤字10億円」の失敗を糧に

文=中居広起 写真=若原瑞昌

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事