経営・戦略

2025.12.19 13:30

KDDI 松田浩路、StarlinkとAI戦略で示す「準備万端」で「先手必勝」な経営理念

松田浩路|KDDI 代表取締役社長CEO

スペースX業務提携の交渉役

イーロン・マスク率いるスペースXとKDDIが業務提携したのは21年のこと。実は、このとき交渉役を務めたのが松田だ。KDDIは米アップルや米グーグルなど名だたるテック企業とパートナーシップを結んでいるが、これらの協議の多くをエンジニア出身の松田が担ってきた。

advertisement

「私たちの事業は常にお客様が起点です。お客様が何を求めているかをいち早く察知し、お客様の望みをかなえられるパートナーといち早く組んで、スピード感をもって提供することで価値を最大化する。自前主義には限界があります。お客様にとって価値があるものであれば、テクノロジーは自前かどうかにこ だわりません」

パートナーシップの成功の秘訣はふたつあると松田は言う。ひとつは、技術に対する先見の明だ。 

「技術はある意味、先読みがしやすい。お客様にこんなサービスを届けたい。それならこの企業と組むべきだという発想がすぐに浮かびます」

advertisement

au Starlink Directもそうだった。顧客が海辺や山で通信できずに困っている。電波が届かない場所でも通信をかなえるには衛星しかない。衛星の分野で先頭を走っている企業、それがスペースXだった。

ふたつめの秘訣は、パートナーとの相互利益を追求することだ。「日本は課題先進国」という言葉をよく耳にするが、松田いわく、日本が直面している少子高齢化や地域の課題には世界中のスタートアップなどが注目しているという。近い将来、どの国にも起こりうるからだ。 

「日本全国、津々浦々に潜む社会課題を解決できれば、そのノウハウを海外でも展開できる。しかも日本のお客様が求める品質基準はとても高い。KDDIの高度なテストプロシージャ(検収テスト)をクリアすれば世界中で通用するというのが、彼ら(KDDIとパートナーシップを締結する企業)が期待していることです」

AI(人工知能)の領域でも、KDDIは積極的にパートナーシップを推進する。通信、デジタルデータ、AIの「かけ算」を通じて、新たな社会的価値の創造とKDDIのさらなる進化を目指す。

「AIは単なる技術ではなく、社会課題を解決するためのツールです。思い切り前のめりにやっていかなくてはいけない」

松田には好きな言葉がふたつある。「準備万端」と「先手必勝」だ。 

「チャンスは準備万端の心を好むという言葉があります。準備万端にしておけば、どんな状況でも対応できる。先手必勝で動ければ競争優位を確保できる」 

楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する。思考のスイッチを切り替えながら成功確率を高める。

「KDDIはソーシャル・インパクトを起こせる会社です。社会的な価値を生み出すことが、仕事のやりがいにつながる」

そう語る松田の目に、KDDIが目指す未来の姿を見た。


松田浩路◎1971年、山口県生まれ。96年に京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、KDD(現・KDDI)入社。衛星通信設備の管理など技術畑を歩んだのち2020年執行役員、23年取締役執行役員、24年取締役執 行役員常務を経て25年4月より現職。

KDDI◎2000年創業の大手通信事業者。「au」ブランドを中心とした携帯電話サービスや固定電話サービス、インターネット接続サービスを提供するほか、DX支援や金融、IoTプラットフォーム、データセンターサービスなどを展開。

文=瀬戸久美子 写真=若原瑞昌

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事