経営・戦略

2025.12.18 13:30

島津製作所 山本靖則、困難を乗り越え掴んだ「事業は人」の哲学とESG1位の実力

山本靖則|島津製作所 代表取締役社長

山本靖則|島津製作所 代表取締役社長

2025年10月24日発売のForbes JAPAN12月号第一特集は、「新いい会社ランキング2025」特集。上場企業を対象にした毎年恒例の大企業特集では、今年は「ステークホルダー資本主義ランキング」と、新たに「ESGフィット度ランキング」の2つを掲載している。ステークホルダー資本主義ランキングは、「地球(自然資本)」「従業員」「サプライヤー・地域」「株主」「顧客・消費者」の5つのカテゴリーで解析。ESGフィット度ランキングでは、サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業を導き出した。同号では2つのランキング、IPOランキング上位の11企業の経営者インタビューを一挙掲載している。

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「ESGフィット度ランキング」で1位に輝いた島津製作所。13代社長・山本靖則がたどり着いた信念と、将来世代に託すものとは。


「私たちの仕事を端的に表現すると『見えないものを見えるようにすること』です」

今年創業150年を迎えた島津製作所を率いる山本靖則は、同社の強みを一言でそう語った。「島津の事業活動そのものがESGの実践につながる」というのだが、いったいどういうことなのか。その謎をひも解いてみよう。

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島津製作所を語るうえで欠かせないのが分析・計測機器だ。医薬品や食品、さまざまな素材から自動車に至るまで、あらゆるモノづくりの現場や研究開発のプロセスで、物質の成分や強度、構造を明らかにする役割を担っている。まさに「縁の下の力もち」だ。

ほかにも、1909(明治42)年に開発された国産初の医療用X線装置に始まり、2002年に田中耕一(エグゼクティブ・リサーチフェロー)がノーベル化学賞を受賞したタンパク質などの質量を精密に分析する「ソフトレーザー脱離イオン化法」、セシウム原子時計の100倍以上の精度をもつ「ストロンチウム光格子時計」(2025年3月受注開始)に代表されるように、産業や研究を支える最先端の基盤技術として進化を続けてきた。

今、島津製作所が4つの社会価値創生領域として据えるうちの2本の柱がヘルスケアと環境だ。山本は「コロナ禍によってクローズアップされた人の健康の問題、気候変動・地球温暖化対策に向けた二酸化炭素排出量削減や新しいエネルギー源の開発など、人と地球を守るために、技術と製品を提供するという大方針にかじを切りました」と力を込める。

例えば、すでに実用化されているのは赤ちゃんの将来の疾患を予見する「新生児マススクリーニング検査」だ。生後4~6日目の赤ちゃんから少量の血液を採取し、質量分析計を使って20種類以上の先天性疾患を調べることができる。この検査は、日本国内ではほぼ100%の赤ちゃんが受けているという。

うつや生活習慣病、認知症といった誰もがかかりうる疾患を未然に防いだり、発症を遅らせたりするための検査や治療法も研究機関などと共同で開発中だ。環境分野では、温暖化の原因となるメタンガスや海洋を汚染するマイクロプラスチックを測定する装置、洋上風力発電施設・海中パイプラインの点検に使われる水中ロボット搭載用の光無線通信装置などを手がけている。150年の営みが、今まさに「人と地球の健康への願いを実現する」というESG経営のもと、結実しようとしているというわけだ。

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文=中居広起 写真=若原瑞昌

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