LVMHイノベーションアワード、カンヌライオンズ「Glass: The Lion for Change」ゴールド受賞。この1、2年で国際的な評価が高まったスタートアップ、へラルボニー。主に知的障害のある作家が生み出すアートをライセンスビジネスに変え、年間150社超とも協業する同社は、経産省が立ち上げた「ART & BUSINESS AWARD 2025」でニューアートビジネス賞を受賞した。
同社が追う重要な指標に、作家報酬総額がある。過去4年間で22倍に増加、就労支援B型の事業所で活動をする障害のある人の平均賃金が月額約1万7000円(※厚労省 令和4年)であるなか、年収数百万円を超え、親の扶養を外れて確定申告をする作家もあらわれた。「鳥肌が立つ、確定申告がある」。2023年に霞ケ関駅に掲出されたこの広告は、ACCグランプリを受賞した。
共同代表の松田崇弥と松田文登、双子の兄弟が率いるこの会社は、福祉を「支援の対象」から「価値創造の起点」へと変えている。
アートを起点とする新たなビジネスモデル
「ヘラルボニー」という社名は、4つ上の兄・翔太が小学生のころ自由帳に記した言葉だ。翔太には重度の知的障害を伴う自閉症がある。ヘラルボニーとはどんな意味かと検索してもヒット数はゼロ、本人に聞いても「わからない!」の一点張り。でも何か魅力を感じるものが、そこにあったのだろう。一見意味がないものを「価値あるもの」として届ける。社名にはそんな思いが込められている。
地元、岩手のるんびにい美術館で障害のある作者が描いたアートに出会い、前身となるブランド「MUKU」を始動。18年に「ヘラルボニー」を設立。着実に仲間や理解者を増やしていき、現在は国内69、海外6の福祉施設と契約している。

受賞の決め手となったのは、その事業としての新規性と経済的インパクト。さらに、アートを起点に持続可能なビジネスモデルを構築した点だ。
障害のある作家の作品をIPライセンスとして管理し、BtoBによるコラボレーション、自社ブランドでのプロダクト販売を通じてマネタイズし、作家に正当なロイヤリティを支払う。JAL、トヨタ自動車、サントリーなど年間約150社との協業を実現し、2025年度の作家報酬総額は過去4年間で22倍に増加した。
障害のある兄をもつという極めてパーソナルで強い核があるだけに、アワードが掲げる“他企業のロールモデル”としての再現性は低いものの、「アートを起点にビジネスを生むスタートアップのベンチマークとなる」と評価された。



