AI

2025.12.19 14:15

あらゆるモノに「耳を澄ます」ターンが来ている 電通創造進化論――なかのかなの場合

隣人の音を聞く

——この先はどういうことをテーマにしていきたいですか?

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なかの:個人的には動植物や生物多様性に興味を持っています。気候変動を含めて、生物との関わりが見えにくくなっている感じがして、見える化、聞こえる化できたらいいなと思っています。

去年にはシビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)という東京都の施設で、微生物の解析をして作品をつくるワークショップに個人活動として参加しました。解析自体は専門の方にやってもらうんですけど、その結果を利用して、私たちのチームはメンバーの発案で「Listen to the neighbours(隣人の音を聞く)」をテーマにしたレコード盤を作りました。微生物の多様性を表現した音をつくって聞けるようにしました。

——今までは人間のコミュニケーションを考えてこられましたけど、人間を超えて微生物の声も聞く。

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なかの:コミュニケーションの範囲は人間以外にもっと広がると思っています。今は家電とか車とか、無生物とのコミュニケーションがあり、メンタルウェルネスのような自分の体の中をデータとしてとらえる内的なコミュニケーションがあります。今後は人間以外の生きものや自然環境、バランスに耳を澄ませるターンなんじゃないかなと。たとえば、森林の状態を見る時も、衛星画像の精度は上がっているし、AI解析もできます。材料は整いつつあります。

——テクノロジー×クリエイティブの10年後はどうなると思いますか?

なかの:モバイルバッテリーが小型化してファン付きの空調服が一般的になり、メガネ型デバイスも何回目かのターンを迎えています。だいたい10年でぐるぐる回っている気がするので、生成AIとか指輪型デバイスとか、今流行っているもののAダッシュみたいなものが10年後に来るんじゃないかと。だから10年後、今自分がつくっているものが、誰かの参考になっているといいなって思います。

——子どもの頃から本好きで、詩を書いて賞をもらったり、大学では歌人の佐佐木幸綱教授の教養ゼミにもいたそうですね。

なかの:社会人になってから詩や小説を読めなくなっていたのですが、今年やっと再開しました。AIに対して人間は何ができるのか。私は創作なんだと思います。だから創作を実践されている作家から学び、人間らしさとは何かについて再び深く掘っていこうとしています。それが私の表現開発の文脈になると思っているからです。

なかの・かな◎電通 第3CRプランニング局Dentsu Lab Tokyo3部。クリエイティブテクノロジスト、リサーチャー。早稲田大学政治経済学部を卒業後、インターネット広告企業でブログサービスのUXライティング、広告キャンペーンの企画開発などを担当。2009年、電通入社。先端技術やカルチャーをリサーチした知見を生かし、未来の生活でのテクノロジーの活用、コミュニケーション体験を具体的な形で提示している。AR空間を飛ぶ蝶をスマホを振ってつかまえ、クーポンを入手するアプリ「iButterfly」(09年)、脳波センサと連動した猫耳型のコミュニケーションツール「necomimi」(11年)など記事で詳しく紹介できなかったプロダクトも多数。TIME誌「世界のベスト発明50」、カンヌ国際広告祭(カンヌ・ライオンズ)など受賞多数。

text by Yuri Nakausa/ photographs by Yuta Fukitsuka

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