——2025年は「刺し子」をモチーフに表現開発されたそうですね。
なかの:半纏に電気を通す糸で刺し子をしました。肘を曲げたりすると、刺し子の柄の部分と下の布が接着して、電気が通って音が鳴るんです。昔からある服を活用して新しいものが作れるのではないかと考えました。将来的には、着ている人が猫背になったら怒ってくれる服ができるかもしれないなと思っています。
——「たしなめ」ですね。なぜ刺し子に注目されたんですか?
なかの:今、海外でも刺し子が注目を集めています。これも文脈を考察してみると、ひたすら縫うという行為が、瞑想のように自己を癒すものとして注目されている印象も受けました。金継ぎと同じように、自分を癒しながら地球を癒すような文脈で新しいものを作れないかと。
——モノの声を聞くコミュニケーションでは、なかのさんはこれまでにも面白い企画をいくつも生み出しています。「mononome」は目の表情でモノの気持ちを表現する、貼り付け型のIoTデバイスです。2014年の企画が今、再注目されているそうですね。
なかの:10年ほど経った今がいいのかな、早すぎたか、という気はしています。たぶん、ようやく今になってAIが当たり前のものになり、無生物と喋ることに抵抗感がなくなったからじゃないでしょうか。
総務省の実証実験で、薬箱にmononomeをつけたことがあるんです。2週間分の薬が入っている薬箱に目がついていて、薬を飲まないと悲しがってキューキュー泣く。どんどん悲しがって、もう涙ボロボロまで、チームのアートディレクターが表情をいっぱい作ってくれました。逆に薬を飲むと喜んで、「ヤッホー!」みたいな音が出るんです。
——それで人はお薬を忘れずに飲むようになったんですか?
なかの:はい。実験に参加した皆さんは楽しんで、最後は別れを惜しんでくださいました。モノと家族になって、薬箱の「薬、飲みなさいよ」というたしなめも、愛と感じられるようになってくれたのかなと思います。
——話を聞いて日記をつけてくれる「notte」というベッドサイドランプも魅力的です。
なかの:声から感情を推定して、色と傾きで共感してくれます。悲しい声で喋っていたら青く光って、うんうんとうなずいてくれる。喜びの声で喋ると黄色く光ってうなずいて共感を示す。そして感情まで含めて日記が記録される仕組みです。スマホと連動していて、スマホを置いたらスイッチが入るようにしました。


