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2025.12.11 17:00

スペースX元社員、「音速の5倍」で飛行する極超音速ミサイルを開発 大手寡占の市場で急成長の理由

Shutterstock.com

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2022年末、スペースXで政府向け営業部長を務めていたブライアン・ハーギスは、海軍将校から切迫した相談を受けた。その内容は、音速の5倍で飛行する極超音速ミサイルを安定的に供給できる新たなメーカーが必要だというものだった。当時、ハーギスはスペースXの衛星を米軍に販売していたが、20年にわたり国防総省向け営業に携わる中で、さまざまな不満を耳にしてきた。しかし、この依頼はひときわ強く彼の胸に響いた。「状況は危機的で、彼はミサイル市場に新たなプレーヤーの参入を切望していた」と、ハーギスは当時を振り返る。

米国は2000年代初頭から極超音速ミサイルの開発に注力してきたが、実戦配備が可能なシステムは保有していなかった。一方、中国やロシアは既に運用段階のシステムを公開していた。「ウクライナで実証されたように、極超音速ミサイルは速度と機動性によって防空網を突破できる。高価値資産を標的とする場合、極超音速技術の開発は世界各国にとって最優先事項だ」と、パデュー応用研究所で極超音速部門の責任者を務めるグレッグ・スコフィールドは指摘する。しかし米国は、開発の遅延とコスト高により、国際競争で後れを取っていた。

ハーギスは、スペースXが海軍将校の求めるスピードと規模で製造できる能力を持つことを理解していたが、極超音速技術は同社の事業領域には含まれていなかった。そこで彼は、商業営業ディレクターのショーン・ピットと財務マネージャーのアンドルー・クレイツと協議し、両名ともこの課題に迅速に対応できる企業は存在しないという認識で一致した。3人は夜間や週末を費やして検討を重ねた末、自ら極超音速ミサイルを製造することを決断し、2022年11月にスペースXを退職して「カステリオン(Castelion)」を創業した。

しかし、事業の立ち上げは決して順風満帆ではなかった。創業メンバーは十分な自己資金を持たず、最初の5ヵ月間で50社を超える投資家や金融機関から出資・融資を断られた。一部の投資家は、同社の事業を酒や銃のように「敬遠される領域」と見なした。また、政府を唯一の顧客とし、ゼロから高度なハードウェアを開発することは無駄だと切り捨てる声もあった。それでも3人は方針転換を拒み、友人の倉庫や場所を提供してくれる地元の機械工場を借り、試作部品の製造を始めた。「資金があろうとなかろうと、彼らは必ずやり遂げると決めていた」と、ラブロック・ベンチャーズのアレックス・プーリンは振り返る。

3人の粘り強さを目の当たりにしたプーリンは、2023年4月にカステリオンに200万ドル(約3億1200万円)を投じ、同社初の投資家となった。これは大きなリスクを伴う判断だった。米政府のミサイル調達は、ロッキード・マーティンやレイセオンといった大手防衛企業が独占してきたためだ。しかし、この賭けはすぐに実を結ぶ。プーリンの出資から1ヵ月後、カステリオンは初めての入札で、政府から低コスト攻撃兵器の開発契約として500万ドル(約7億8000万円)を獲得したのである。

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編集=朝香実

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