サイエンス

2025.12.12 18:00

「自然からの贈り物」ではない、人類が数千年前に生み出した果実

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レモンと言えば、この世に無数にある自然の産物の一つだと捉えている人がほとんどだろう。明るい黄色の果皮を持つこの果物は、常に自然界に存在していた、と考えられがちだ。

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だがレモンは、多くの果物とは異なり、単純に「自然からの贈り物」と呼ぶことはできない。事実、今あるレモンは、私たち人間が形作ってきた生物学的発明であり、大昔からの交雑と、何世紀にもわたる入念な栽培の産物だ。

遺伝学や植物の育種が学問分野として確立するはるか前、東南アジアでいち早く植物を栽培していた人々はすでに紀元前1000年代頃から、野生の柑橘類を強い酸味と芳香を持つ今のレモンへと変えていく選択をしていた。研究によると、その方法は以下のようなものだ。

レモンの起源をめぐる物語

学術誌『Bulletin of the Torrey Botanical Club』に1975年に掲載された、古典的な植物学論文の説明によると、レモン(学名:Citrus limon)は、より古くからあった2つの果物をかけ合わせて生まれたとのことだ。一つがダイダイ(学名:Citrus aurantium)、もう一つがシトロン(学名:Citrus medica)だ。

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不思議なことに、親にあたる種の果実は、私たちが今知る明るい黄色をした、非常に酸味が強いレモンとはまったく異なる。実は、今から数千年前に、酸味が強く、輸送に耐える丈夫で厚い皮といった、自然には発生しない特定の形質が選び取られていたのだ。

前述の研究論文によると、レモンは、今のインド北部あるいはミャンマー北部にあたる地域のどこかで作り出されたようだ。そして誕生後は、数世紀にわたる選択的栽培によって改良されていった。

これはつまり、選択的飼育によってオオカミから飼い犬が生まれたように、レモンも、先祖にあたる柑橘類の意図的なかけ合わせや選択によって生まれた果物ということだ。言い換えれば、レモンの生みの親は自然ではなく、人間ということになる。

レモンがこの世に生み出された理由は単純だ。すなわち人間が、当時の自然環境に存在していた果物ではかなえられない性質を持つ果物を求めた、ということだ。具体的には、食物の保存や腐敗臭のマスキング、表面の消毒、そして料理に酸味でキリッとしたパンチを加える、といったことだ。

こうして生み出されるやいなや、レモンはマルチに使える生化学的ツールとして、貿易ルートに沿って急速に広まっていった。レモンは、医薬品、調味料、さらには長距離を運搬する際の防腐剤といった用途で使われてきた。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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