野生には存在せず、人による品種改良によって生まれた柑橘類たち
長年にわたり、レモンの正確な植物学的起源は議論の的だった。それが思いがけなく明かされたきっかけは、『Annals of Botany』に掲載された2016年の研究だった。これは、柑橘類の栽培種と近縁の野生種、計133種を対象に、大規模な遺伝子解析を実施したものだ(解析では、葉緑体のDNAとミトコンドリアマーカー、さらには120種以上の細胞核マーカーを組み合わせている)。この分析の中で研究チームは、レモンやライムが今のような形になるまでの道筋を再現することに成功した。
この分析結果から、レモンが非常にヘテロ接合性を持ち、いくつかの柑橘類の分類群にまたがる複数回の異種交配によって生まれたことが判明した。よりわかりやすい言葉で説明すれば、レモンのDNAは非常に多様ということだ。そこにはさまざまな柑橘類の果物の痕跡が残されており、なかでもシトロンが、共通する究極の先祖だとわかった。
とはいえ、人類の歴史の中で、選択的に栽培された果物はレモンだけではないことも忘れてはいけない。柑橘類の果物はすべて、異種間の交配が並外れて容易で、人間はこの特質を大いに活用してきた。
前述のものとは別の、DNAマーカーを用いた2016年の研究(『PLOS One』に掲載)では、数百に上る柑橘類の品種を横断してレモンの系譜を遡った。その結果、柑橘類の系統樹が非常に複雑に絡み合っていることが裏づけられた。
・オレンジ(スウィートとビター両方)は、ザボンとマンダリンオレンジの交雑種
・ライムはシトロンを起源に持つが、さまざまな昔の柑橘類の系譜が混ざり合っている。
・グレープフルーツは、1700年代にカリブ海地域に登場したもので、スウィートオレンジとザボンが偶然交雑した結果生まれた可能性が高い。
・タンゴール、タンジェロ、クレメンタインはすべて、人為的な柑橘類の交配によって生まれた
これはつまり、あなたの家の近所の食料品店にある柑橘類コーナーの品揃えは、端的に言えば「人間によって作られた生物多様性」を示しているということだ。「野生種」の果実は、小さく、種が多くて苦いのが当たり前だが、私たちが慣れ親しんだ柑橘類はこれとは違い、味の良さ、収穫や保存の容易さ、料理や美容における使い勝手を求めて、念入りに品種改良されている。
初期の農耕や貿易、園芸に従事する人々は、意図したかはともかく、その手で柑橘類の進化の道筋を根底から変えてきたわけだ。
しかしながら、柑橘類が生来備えていた生物学的性質も、このプロセスと密接に結びつき、それぞれの役割を果たしている。この属は、異種間の交雑が容易な性質を持ち、多くの種では、他の種との交雑が可能になっている。こうした性質は、人間や受粉を手伝う昆虫に、種の壁を超えて形質をかけ合わせるのに使える、豊富な材料を提供する。


